蜃気楼龍玉の「もぐら泥」 ― 2019/07/02 07:08
蜃気楼龍玉、長身で、いかにも落語家らしい風貌だ。 浅草寺賽銭泥、仁王 門の小咄をやり、真打と言っても、この程度、あまり期待しないように、と。 押し込み強盗が徒党を組んで、料理屋の回りを取り囲んだ。 親分が入って「金 を出せ」と脅す、ないというと、「昼間に入った五十両を出せ」と、確かめてあ った五十両を奪う。 腹が減ってるんで、何か食わせろ。 家も商売、お代を 頂かせて下さい。 何か、こしらえろ。 鯉の洗いに、鯉こくで、如何で。 い いな。 美味かった、代はいくらだ? 鯉が時化で、五十両。 やむなく払っ て出ると、外の手下が、中の首尾は? シーッ、コイが高い。 これで、終わ ってもいいんですが…。
もぐら泥棒というのがある。 昼間は表からじっくり眺めて、あたりをつけ る。 それを頭に入れて夜、泥棒に入る。 昔の家は、土台がしっかりしてい ない。 敷居の下に穴を掘って、手を入れて掛金を外す。
おかしいな、どうやっても勘定が合わない。 (主人が)ソロバンを、チュ チュチュチュ、おかしいな。 おい、あくびしながら、亭主に返事するな。 さ っさと、寝ちまいな。 お前、何か買ったものはないか? 安かったんで、お 光さんとお揃いの反物を買いました。 いくらだ? そんなにしたのか、弱っ ちまうな。
もぐらが、敷居の下を掘り始める。 (いったん手を叩き、手を入れる。) 桟 (さん)がねえ、ちきしょう、こんなところか、間違えたか、なかなか届かな い。 どうやっても、勘定がおっつかないんだ。 どうやっても、おっつかな い、これが。 お前、何をぶつぶつ言っているんだ。 何も言ってませんよ。 二円ばかり届かない。 二寸ばかり届かない。 おい、うるさい、二寸なんて 金はない。
アッ! おい、いい眠気覚ましだ、土間の隅を見てみろ。 手が、生えてる。 泥棒だよ、ありがてえ、ふんじぱって差し出そう。 細引、持って来い。 そ れは股引だ。 これで、どうだ。 痛え、痛え! 手が千切れる。 何か深い訳 があるに違いない、勘弁しておやりよ。 おかみさんですか、そう、深い訳が あるんで、たった一人のお袋が寝たっきり、ほんの出来心で。 お前さん、今 の内に逃がしちゃいなさいよ、子分がいて仕返しに来たりするから。 そうで す、これが先駆け、火をかけます、65人からの手下がいる。 突き出すよ、お 袋一人養えないで、65人の手下がいるわけはない。 ごもっともで。 仲間が 火をつける。 どうせ借りてんだ。 見てますか、頭、下げてます。 どうし ても駄目なのか、ああ、そうかい、ふざけんな。 野郎! 痛い、嘘です、親 方、大将。
冗談じゃないよ、静かになった、寝ちまったのか。 どうして、犬が来るん だ。 片足上げて、何しようてんだ。 アッ、やりやがった、ご丁寧に砂まで かけやがった。
酔っ払いが来る。 飲み屋のおやじも嫌なことを言う、今度金を持って来な きゃあ飲ませないなんて、犬が出て来たぞ。 ここで、小便でもぶっ放すか。 おい! 驚いた、いきなり声出して、誰だい? 足元、見てみろ。 何やって んだ、そんな所に寝てないで、家へ帰って寝たらどうだ。 盗っ人だ。 敷居 ごと家を持ってこうとは、気が大き過ぎる。 男の中の男と見込んで、頼みが ある、手を貸せ、一杯飲ませる。 なんだ、縛られているのか。 どうすりゃ あ、いい? 忍び返しの中に、がま口と小刀が入っている。 取ってくれ、小 刀で細引を切るから。 どこ、触ってんだ、ハハハ、遊んでんじゃないよ。 お い、いい商売だな、がま口、ずいぶん目方がある。 小刀を取ってくれ。 慌 てる泥棒は貰いが少ない。 お前、いい商売だな、二千円近く入っている、こ れだけあれば、お前にごっつおうになることはない、方々の付け払っても。 お 前、本当に動けないの、これ、貰っておくから。 アッ、ちきしょう、ドロボ ー!
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