小和田恒さん、国際法の理想と国際関係の現実のはざまで2021/08/18 06:58

 二日間、以前書いたものを「マクラ」として出して、読んでいただいたのは、実は、これを書きたかったからだ。 7月20日朝日新聞朝刊の元国際司法裁判所長・小和田恒さんのインタビューだ。 雅子皇后の父上、1932(昭和7)年生まれ、9月には89歳になる。 外務事務次官や国連大使を経て、2003年オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)裁判官となり(2018年まで)、その間2009年から12年まで日本人初の裁判所長も務めた。 外交官当時から国際法が目指す理想と国際関係の現実のはざまで格闘してきたが、現在は、母校東京大学と名誉教授であるライデン大学が共同でこの秋に始める「小和田恒記念講座」に携わって、後進の若者を育てようとしているという。 『国際法と国際関係の相互作用』を中心テーマに、6年間、両大学が毎年交代で担当、初回は10月にライデン大学で、フランスの国際政治学者ドミニク・モイジ教授の「感情の地政学」の講義と、1週間ほどのワークショップがある。

 講座の狙いを、小和田恒さんは、第一に、法の支配に基づく国際秩序への挑戦が、冷戦終結から今世紀にかけて台頭した背景と、その克服だと言う。 それを小和田さんが終生の実践と研究の対象とする『国際法と国際関係の相互作用』から探るのだ。

 17世紀の欧州で宗教戦争を和解に導くウェストファリア講和が実現し、主権尊重と内政不干渉を中核に主権国家が併存する近代国際秩序の枠組が確定した。 ここから発展した近代国際法学には、ユートピアを目指す規範主義的傾向が強く、国際紛争の平和的解決を掲げた1899年のハーグ平和条約で頂点に達する。 これに対し、2度の大戦とナチス台頭への幻滅から生まれたのが国際関係学で、ジャングルの掟(おきて)が世界を支配するという認識に立つ現状肯定的指向が主流である。 国際法学が目指す理想と、国際関係学が取り組む現実のギャップを埋める努力がなく、国際社会観を乖離させてきたのではないか。 近代以降の歴史の流れを巨視的に見て『国際法と国際関係の相互作用』を的確に捉えることが、世界に安定をもたらす道だと、小和田恒さんは考えている。