マーク・トゥエイン『王子と乞食』のモデル2022/06/14 06:57

 杉本博司さんの「portraits/ポートレート」6月号は、「ジェーン・シーモア」である。 アン・ブーリンが公開処刑されてから、わずか11日後に、ジェーン・シーモアは王妃となる。 ジェーンは気性の激しかったアンとは正反対に、従順で優しい性格だった。 ヘンリー王の最も愛した妻として知られている。 しかし、その幸せは長く続かなかった。 ジェーンは王が渇望していた王子を見事に産んだ。 エドワード皇太子だ。 しかし、王子誕生から、わずか12日後、ジェーンは産褥熱で死んでしまう。 王妃となって一年半、愛おしい妻は自らの命と引き換えに王子を産んでくれたのだ、王は悲嘆に暮れた。

 こうして切望されて生まれた唯一の王子エドワードは、後にヘンリー八世崩御後、エドワード六世としてイングランド王に即位する。 その時わずか9歳だった。 摂政にはジェーンの兄が就き、サマセット公として実権を握るが、若き王は廷臣達の権謀術数に巻き込まれ、伯父は反逆罪で処刑され、次第に疲弊していった。 そしてたった15歳で崩御してしまう。

 19世紀になってエドワード王子の思い出は、マーク・トゥエインの小説『王子と乞食』として、再登場することになる。 堅苦しい王宮生活に嫌気がさしたエドワード王子が、衛兵に蹴散らされる乞食の子を門内に入れて、服を交換し、別世界を見るという話だ。 王と乞食、どちらが幸せかという痛烈な皮肉。 そのどちらにも人が最も必要とする自由はないのだ。 そう、杉本博司さんはまとめている。