柳亭市馬の「穴どろ」前半2022/12/30 07:08

 暮になると、お金や泥棒の話から離れられない。 お客様も気を付けて下さい。 師匠の先代小さんが空き巣に入られて、ニュースになった。 一番先に弟子連中が疑われて、指紋を取られた。 で、空き巣が捕まったという話はない。 新聞は「小さん師匠ご難」、480万円とか気を遣って書いたが、そんなお金は家の中にはない。 師匠はちょうど国立演芸場のトリで出ていて、明くる日は休んだ。 代演は副会長の先代馬生、小さんと仲がいい、酒の飲み方も芸風も正反対なのだが…。 踊りの名取。 高座に上がると、咳払いをして、本日のトリの小さん、昨日泥棒に入られて、今日は金策に出ておりまして…、と泥棒の話に入った。

 芝居の「白浪五人男」、日本駄右衛門、南郷力丸、赤星十三、忠信利平、弁天小僧、土手に並んで傘を差して科白を言っている間、後ろに十手を構えた捕り手が大勢いる、早く捕まえればいいのにと思う。 落語の方は、大したのは出てこない、石川五右衛門の子分で二右衛門半なんてのが出る。 泥棒を追いかけている吉っさん、町内で一番足が速い。 どうした泥棒は? 今、あとから来る。

 料亭に泥棒が入った、子分を外に待たせ、親分が刀を帯びて行く。 百両、無尽で当たったのを知っていて、脅す。 ここに、百両。 腹が減った、何か食わしてもらいたい。 料理は商いですから、勘定をいただきますが? 構わん。 鯉こくと、鯉の洗い。 旨かった、勘定はいくらだ? 百両頂きます。 仕方がない。 外に出た親分に、子分が「中の首尾は?」 「シィーッ! 鯉が高い」

 吾妻橋の上で、二人の泥棒が相談している。 一人が蝙蝠傘でドボンと飛び込む。 身投げだ、身投げだ、と、人が集まる。 川を覗くと、飛び込んだ男は達者に泳いで、傘を差して、傘の上の玉を回す。 趣向だ。 ヨッ! 出来ました、ご趣向! ご趣向! 相棒は、見物人のふくらはぎを松ッ葉で刺す。 足を持ち上げると、草履を持って行く。

 今、帰った。 どこをノソノソ歩いて来たんだい、算段はついたのかい。 三両持って来ないと、飯を食わせないよ。 お店の番頭さんは、どのツラ下げてと、怒ってね。 意気地がないんだから、豆腐の角に頭ぶつけて死んじまいな。 金がなきゃあ豆腐も買えない、三両持って来い。

 家を出ると、両国橋を渡って、百本杭のところまで来た。 釣れそうですか? 針の先は何? 餌だ。 引いてるよ、上げなきゃ。 うるさいな、あっちへ行け。 蔵前橋、田原薬師前から、吾妻橋を渡った。 大きな立派な家から、若い男が二人、源六、早く行こうよ。 吉原へ行くんだな。 戸が、開けっ放しだ、危ない。 雨戸も開いているよ、あそこから出たんだ。 入ってみるか、お膳にご馳走が並んでいる、徳利もある、何か目出度いことがあったんだな。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック