柳亭小燕枝の「禁酒番屋」 ― 2022/12/09 07:14
赤茶の羽織、鴬色の着物でチョコチョコと出て来た、柳亭市弥改メ柳亭小燕枝、市馬の弟子だということは、すぐに明らかになる。 9月21日に真打昇進、50日間の披露目をした。 落語研究会は二ッ目の時に太鼓番などやり雰囲気はわかっていたのだが、真打になって戻ってくると、楽屋でどこに座ったらいいのかわからない、15年もやっているのに、上下(かみしも)がわからないようになる。 ♪サッポロばかりがビールじゃない、アサヒもキリンもあるじゃない。今宵あたしが欲しいのは、愛しあなたの口ビール。(松の木小唄の節) 師匠は、こう歌う。
若いのと年寄が、角から三軒目は俺の家だって喧嘩してるけど、マスターいいの? いいんですよ、親子だから。
酔って青くなってきたら気を付けろという。 腕自慢の侍が酒の上で喧嘩になって、チャリンチャリン、相手を斬り殺してしまい、腹を切って自害した。 殿様は家来二人を死なせたので、余の藩は一同禁酒と、禁酒令を出す。 家中の酒屋が困った。 しばらく経つと、少しならばいいだろうと赤い顔をして戻る者も出て、重役が門に番屋をつくり、きつい罰を課すことにしたので、「禁酒番屋」と呼ばれている。
近藤様じゃございませんか、お飲みですか。 表で飲んで、少し醒まして小屋に戻るところだ、酒は殿もお好きだ。 酒屋、一升注いでくれ、この場で飲む。 困るんです。 一升桝に注いでくれ。 一気に飲んで、もう一升。 好い心持になった、夕景までに一升小屋に届けてくれ。 出来ないものは、出来ません。 腰の物に物を言わせて、届けてくれ、と。
番頭さん、届けてあげましょうよ。 向う横丁の梅月堂、菓子屋の南蛮渡来のカステラといって、五合徳利二本並べて。 私に任せて下さい。
どちらへ参る。 近藤様のお小屋へ、カステラのお届けで。 中身を検める、包みをこちらへ、役目の手前だ。 お遣い物だそうで、熨斗や水引がずれると困るので。 よい、持って参れ。 有難うございます、ドッコイショ。 今、ドッコイショと申したな。 こっちに出しなさい。 ドッコイショは、口癖で。 役目の手前、確かめる。 なんじゃ、これは? 徳利ではないか。 近頃売り出しの水カステラで。 門番、湯呑を持って参れ。 控えておれ。 クックックッ、ポン。 久方ぶりの水カステラ、口の方からお出迎えだ。 結構な水カステラだ、町人などというものは、愚かなものだ。 この偽り者め、立ち帰れ!
何だ、バタバタ帰って来て。 今度は私が行きます、油徳利にして。 向う横丁の油屋、油徳利を近藤様のお小屋へお届けで。 こちらに、出しなさい。 控えておれ。 役目の手前、一応確かめる。 水カステラと同じ匂いがする。 かような油があるか、棒縛りにしてくれる。
二升飲まれた。 私が行きます、江戸っ子だ、仇討ちに。 酒でなくて、小便を持って行く。 えらいことになる。 小便を小便と言って持ってく。 みんなで、寄ってたかって小便をして、徳利につめた。
お願いがございます。 どーーれ。 役人はもう、すっかり出来上がっている。 近藤様のお小屋へ、向う横丁のンンベン屋、小便屋です。 小便屋? 小便のご注文で、松の肥やしに、上等なのを一升。 一応、取り調べる、控えておれ。 御同役、燗をして参ったようで。 毎度、お先に。 だいぶ、泡立っておるな、フッフッフッ(と、吹く)。 ウワッ! けしからん、かような物を持参しおって! ですから、私は小便と申しました。 ウーーッ、この正直者めが!
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