春風亭一之輔の「お見立て」後半2022/12/29 07:08

 喜瀬川さん、面倒くさいことに、見舞に行くと言ってます、旦那に兄貴だという証明書を書いてもらえ、と。 御内証に知れたら困る、大変なことになる。 最初(両手を広げ、指も広げて)花魁、喜んでお待ちかねですって、言いました。 死んだって、言いな。 斬新な意見で。 そうだ、あいつ三月ばかり来てない、お大尽、あなたが殺したようなものだとお言い、あなたが来ないんで、思い悩んで、食べるものも喉を通らなくなって、不実な男だ、先に行くよって、カクッと死んだ、と。 涙の一つも流すんだ。 涙が出ない。 紙縒りで鼻を突くと、涙が出る。 くしゃみが出る。 くしゃみの手前だ、バカ。 学校じゃ級長務めた男だ。 紙縒りか。

 ケスケ! ちょっと向う向いて、紙縒り入りました、どこまで行く、耳から出るぞ。 ハッ、ハッ、ハックショイ! お大尽、謝らなきゃいけない、真っ赤な嘘で。 驚かそうという魂胆か。 実は花魁は、ウララベッカンコ、お亡くなりになった(と、頭を下げ)、この角度で言った。 ケスケ、顔を上げろ、お前ょう、泣ょーとるだな。 ハッ、ハッ、ハックショイ! 嘘偽りで、きれいな涙は流さぬ。 ウォーーッ、ブフォーーッ! サイレンで。 ワシが殺したようなものだ、三日前、ニワトリを三羽絞めた。 手紙の一本でも、書ぇてくれれば。 なぜ手紙が来ない。 ワレが代わりに書けば、よかんべっち。 よかんべっち? そこは大事なところじゃない。 お大尽の所番地がわからない。 所番地は喜瀬川に渡してた。 書き付けを受け取ったけれど、間にゲジゲジがいたんで、花魁、火鉢に入れたって、言ってました。 いつ、死んだ、命日だ、五月の晦日と踏んどる。 トントントン、と黄瀬川が現れた。 ここまで来た、 寂しいよ、と。 狐、狸、化かしに来たな、と言ったら、ポンと消えた。 村さ、帰ぇる。 お大尽、お帰りになるよッ! 何で、溌溂と言う。 墓参りに行く、寺はどこだ? 山谷。

 花魁、墓参りに行く、寺はどこだってんで、山谷と。 カムチャッカとか言えばよかったのに。 船に乗って来ますよ、蟹や鮭を獲りながら。 最初(両手を広げ、指も広げて)花魁、喜んでお待ちかねですって、言いました。 墓参り行って来て、適当な墓を見繕って。 真面目ひと筋、学校じゃ級長務めた。

 行こうじゃないか、山谷へ。 仏様も、ぜひ来てほしいと言ってましたから。 ブフォーーッ! 泣いてる場合じゃない。 寺、どこにしようかな。 おしゅーし(宗旨)は? コハダが好き。 禅寺宗で。 ♪墓はどれに、しようかな。 歌うな。 お婆さん、花沢山に鉢植え、お線香十束、火をつけて。 のろしか。 お線香を、バタバタ煽ぐ。 お大尽、張り切って、どうぞ。 黄瀬川、すまなかったな、三月も来られなくて…、煽ぐでねえ、痛い、何だ蘇鉄か。 「アンモウナントカ信士」、信士というのは、男の名ではないか。 すみません、こちらでした。 黄瀬川、すまなかったな、以下同文。 「陸軍歩兵上等兵」ではないか。 こちらの、小さいのでした。 「ペロ、安らかに」、犬の墓ではないか。 よろしいのをお見立てを、ずらりと並んでおりますので。