隅田川馬石の「お初徳兵衛」前半2023/05/12 07:06

 「船徳」の古い形の噺だと、馬石は始めた。 三道楽(さんどら)煩悩というが、金さえあれば、面白いように、出来上がっている。 はまると、夜泊り、日泊りになる。 徳兵衛が久しぶりに帰って来た、いくら何でも5日は長過ぎるといっても、月の内、5日しか家にいない。 親父が叱ると、吉原へ行くのは人助け、ナカの花魁は3日会えないと死ぬと申します、と。 今日ばかりは外へ出てはならないと言われ、親類会議になる。 徳兵衛、どうする、親を捨てるか、女を捨てるか。 親を捨てます。 久離(きゅうり)切っての勘当となる。

 さっそく、女の所へ。 だが、金がなくなると、おばさんというのが出て来て、あの子が泣いてばかりいて可哀そう、一度ウチに帰って、ご勘当を許してもらって、と追い出される。 幇間や仕出し屋の二階を回ったが、行き所がなくなる。 親類にも回状が行き、むすび一つ渡してくれるな、と。

 柳橋の上で、下の芸者と舟遊びに出掛ける連中を見て、自分が持てていたのでなく、金が持てていたんだ、と気付く。 生きていても甲斐がないと、両国橋から身を投げようとする。 平野屋の若旦那じゃあないですか、船宿の大松屋(おおまつや)の親方が、何でわっちのところへ来てくれない、と声をかける。 平野屋さんには、ずっとご贔屓にして頂いてきている、若旦那を一生お預かりしてもいい。 船宿の二階に居候ということになる。

 居候、置いて合わず、居て合わず。 痒いところに手が届くように、親切にしてくれると、気が詰まる。 親方、二階まで来ておくれ。 折り入って頼みがある、船頭にしてもらいたい。 いけません、大身代を継ごうという、たった一人の跡取息子だ。 薬研堀の縁日で、番頭に会った。 番頭の話では、家では夫婦養子をしたという。 若旦那のお耳にも入りましたか。 大店の主も、船頭も、同じ一生でございます、やれるだけやってごらんなさい。

 舟の稽古を始めた。 小さいのが猪牙(ちょき)舟、空の舟なら、どうやら扱える。 大川はなかなか厄介で、川幅は広いし、川中は流れが速い。 柳橋から二人の客を乗せ、大川に出て、舟を二三度回される。 御厩の渡しで渡し船にぶつかりかけて、舟を引っ繰返しそうになった。 舟が岸壁に張り付いて、壁を押して手伝ったりしたお客は、ようやく竹屋の桟橋(花川戸)に上がった。 すまないが、按摩を一人雇って下さい。 二貫の酒手に、一貫八百掛かった。

 失敗しながら、コツをつかんで、猪牙舟から、やがて屋形舟もこなせるようになった。 さんざん遊んだから、洒落が言えて、話すことが面白い、徳さん、徳さんと、引張りだこになった。 四万六千日様、お暑い盛りでございます。 油屋の旦那が、お得意の天満屋さん、芸者のお初と、六千日様詣り。 大桟橋まで屋根舟をすぐ出せるかい、船頭は徳さんを頼みたい。 女将さんが一突きするのも愛嬌で、屋根舟を出す。

 大川へかかると、けっこうな風。 夏場は舟に限るね、照り返しもあるし。こまんどう(駒形堂)あたりの桟橋と思ったが…、いや昼は吉原、夜は柳橋がいい、船足を延ばして、堀までやってくれるか。 いきなり裏手へくり込もうとなさるんで、まあ観音様も、弁天様も、同じ神様ですから。 山谷堀からお初も上ろうとして、吉原にほかの芸者を連れて行くのは、「びんつけ」と嫌がることに気づく。 でも、一人船頭、一人芸者は、きつい御法度だ。 よろしゅうございます、姐さんを柳橋までお届けします。 お初は男嫌いで通っている、間違いはあるまい。 徳さん、頼む、日の暮れにはまた迎えに来ておくれ。

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