「恋の情念とせつなさ 詠み続け」2023/06/18 07:08

鈴木真砂女さん、訃報の続き。 見出しは、「恋の情念とせつなさ 詠み続け」

 品のいい和服に帯をきりりと締めて、カウンター19席、奥に小部屋が二つの小料理屋「卯波」の奥にいつも端然と座っていた。

 あでやかに美しく、恋の情念とせつなさを詠み続けた人。卒寿を迎えるころ「自分で選べば代表作は」と聞いたとき、即座にあげてくれた一つが恋の句だった。

 「羅(うすもの)や人悲します恋をして」

 姉の急死で義兄と再婚し、安房・鴨川の旅館のおかみになって2年後、30歳で、七つ下の海軍士官だったその人に会った。その人には妻があった。

 それが原因で、50歳のときには追われて銀座の路地裏に店を開くことになるが、真砂女はひるまなかった。かえってその小料理屋のおかみの自負を句境に加えて、真砂女の名は年経るごとに大きくなった。

 40年間に及んだ恋はその人の死で終わったけれど、それからさらに20年以上を生きて、本人はその生涯をどう考えただろう。もう一つ真砂女が代表作に選んだのは、80歳を超えた時の次の句だった。

 「今生のいまが倖せ衣被(きぬかつぎ)」

 恋に生きて、最後の到達点だった。

 (編集委員・降幡賢一)さん、渾身の名文訃報だった。