市馬の「船徳」2012/08/03 03:53

 私は市馬の「船徳」を楽しみにしていた。 先日聴いて感心しなかった立川 談慶(7. 24.「立川談慶 霞が関独演会」)と、どこが違うか、見極めたかった からだ。

 トリらしく黒紋付の羽織、黒っぽい着物で出た市馬、〈親の脛齧る息子の歯の 白さ〉という川柳から入った。 「戒めの勘当」と「久離(きゅうり)切って の勘当」があり、お父っつあんの贔屓にしている船宿の二階に居候しているな んぞは前者、倅は親の気持がよくわかっている。 船宿の親方が、考え方が落 ち付いたかと聞くと、船頭になりたい、女たちに様子がいいねと言われたい、 と。 その料簡が間違っているけれど、言い出したら聞かないところは、大旦 那にそっくりだ。 みんな集めてパァーッと散財し、お披露目をしたい。 寄 席の真打披露じゃないんだから。

 親方に呼ばれた船頭たち、小言かと、前もって二件白状して、ちっとも知ら なかった、と言われる。 じゃあ、おかみさんが行水している所を、みんなで 覗いた、というのが市馬らしい。 ここで私も白状しておくが、談慶をくさし て「女中のお竹が、河岸にいる船頭の熊や八を呼びに行くところ、お竹が初め 男に見えた」と書いた。 先の文楽が演じたのを書いた安藤鶴夫さんの『わが 落語鑑賞』を見たら、竹は船頭で「掃除をしたり、飯の火を焚きつけたり、使 い走りに使われて、まだ本格の船頭にはなっていない若い者」とあった(申し 訳ない)。 ただ、最近は女中で演っているようで、市馬も「女中も古くなると アダ(仇)していけねえ」と言っていた。

 四万六千日様、暑さの天井みたいな日。 船宿・大桝(市馬は「だいます」、 上の本は「おおます」)が贔屓の人と、太って舟は嫌いな連れが、若旦那の舟に 乗ることになる。 おかみは「ほんとに行くのね。もういけないと思ったら、 ご自分だけ助かって下さい」と、客にではなく、若旦那に言う。 「腰を張っ て、ぐっと」と、声もかけるが、舟はまだ舫ってあった。 あー、出た。 竿 を頭の上で、相撲の弓取り式みたいに振るものだから、雫が客にかかる。 そ の竿を流してしまって、艪(ろ)のあることを客に教わり、私には艪という強 い味方があった、と。

 艪に替えて、やや落ち着き、唄を歌う。 これは文楽にはなかった。 〈夏 の納涼(すずみ)は両国の 出船、入船、屋形船〉 船頭さん、幾つになるん だい? 〈揚る流星 星降り(くだり)〉 幾つになるんだい? 〈玉屋が取り 持つ 縁かいな〉 二十四です。 歌い切ったね。

 それからのドタバタは、ご存知の通り、市馬は明るく愉快に聴かせたのだっ た。

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