橘家圓太郎の「算段の平兵衛」下2023/05/17 06:55

 どうしていいか、わからない。 平兵衛の所へ行こう。 庄屋のおかみさん、どうしました? ウチの人が死んだの、私が、死ねるものなら死んでごらんなさいって、言った。 あなたが殺した。 どうなる? 役人を呼ばなきゃならねえ、庄屋の家系も途絶えることになる。 とにかく、行こう。 頭の使い所だ。 おかみさんは、バッタみたいに頭を下げる。 役人を呼ぶよりしようがない、ともかく家の中に入れよう。 おかみさんは、葬式代に取っておいた二十五両で、どうにかしてもらいたい、と。 この村も、隣村の庄屋が差配することになると、年貢も多くなるだろう。

 平兵衛は、派手な手拭を一本頭に巻き、庄屋には地味な手拭を巻く。 どうにかしようと、一人で庄屋を背負って出かける。 平兵衛の家を過ぎて、村外れの土手の草むらを登って、隣村へ。 盆踊りの稽古、三味の音が聞こえ、土手を登り切ると、ヤグラや提灯が見えた。 男たちが張り切って踊っている。 平兵衛は、輪の中に入り込んで、庄屋の両腕を取って(カンカンノウのような形で)踊る。 若い男の頬っぺたに、冷たい手が当たった。

 ちょいと集まれ、どこかの村の奴が、盆踊りを潰しにきたようだ。 やっちまえ、やっちまえ! もういい、一人で乗り込んで来て、いい度胸だ。 ジジイだぞ。 提灯を持って来い、どっかで見たツラだ。 隣村の庄屋じゃないか。 起きてくんねえ。 まばたきしねえよ。 死んでる。 誰が殺した。 眉間を殴った。 肘打ちした。 後頭部を蹴った。 えれえ、こった。 みんなで、やっちゃった。 どうする。 やっちまったんだから、名乗って出るか。 女房子が、路頭に迷う。 隣村とも、終りのない戦いになる。 そうだ、算段の平兵衛に相談しよう。 お庄屋、お庄屋! 何だ、この夜ふけに。 算段の平兵衛に頼むよりしかない、切り餅二つ、五十両出してもらいたい。 俺は知らないことにしろ。

 何だい。 何も言わずに、五十両受け取ってもらいたい。 言ってみな、よく落ち着いていられるね。 これを持って、帰えってくれ。 ウチの村の庄屋を殺されたんだ、そちらの村に火をつける、仕返し仕返しで、切りがない。 何とか算段してもらえないか。 面倒なことをしてくれたものだ。

 死骸は、一本松の所に置いてきた。 小便をして、一本松の崖を落ちたことにしろ。 庄屋のおかみさんを連れて来て、医者にも診てもらったが、藪医者で駄目だったと言え。 よく、すらすらっと、言えるね。 おかみさんも、いう事を聞いてくれるはずだ。

 庄屋は、悲惨な人生だった。 平兵衛は、七十五両を懐にして、暮らし向きがよくなる。 博打場で知り合った按摩の杢市が、おかしいと、あっちこっちで話を聞いて回り、探りを入れる。 しかし、庄屋の倅夫婦と按摩が、あらぬ噂を流したというので、お縄にかかった。 本当のことは、藪の中。