ヴィッセル神戸のJ1初優勝2023/11/29 07:20

 サッカーは日本代表の試合以外ほとんど見ないのだが、25日にヴィッセル神戸がJ1の優勝を決めた名古屋グランパスとの試合は、慶應の武藤嘉紀がいるので見た。 すると、知らないことばかり。 「神戸讃歌」というのをサポーターが大合唱するのだが、どこかで聞いたメロディだと思ったら、エディット・ピアフの「愛の讃歌」だった。 1995年、ヴィッセル神戸が誕生し、初練習の予定日に阪神・淡路大震災が起こった。 「神戸讃歌」は、「共に傷つき共に立ち上がり」「これからもずっと歩んでゆこう」「命ある限り神戸を愛したい」と歌う。 ユニフォームの色は、クリムゾン・レッド。 プロ野球の楽天の色だ。 2004年に経営難のヴィッセル神戸に変わり、クリムゾンフットボールクラブ(現・楽天ヴィッセル神戸)が新たな運営会社になった。

 試合は、前半12分、左サイドのスローイン、怪我で先発しなかった山口螢に代わってボランチに入っていた酒井高徳からのパスを大迫勇也がトラップして、左を駆け上がってきたMF井出遥也にパスを合わせ、井出が右足で決めた。 直後の前半14分、左サイドで大迫が相手をドリブルで揺さぶって、中央に走り込んでいた武藤嘉紀の足元へ。 武藤は、ワンタッチでネットを揺らした。 2対0。 次に名古屋が得点すれば、試合の行方はわからなくなる前半30分、名古屋はユンターが1点を返す。 前半の残りと、後半、さらにロスタイムの5分、神戸はずっと緊張を強いられることになって、終盤さすがの武藤も足が吊っていた。

 26日の朝日新聞朝刊、堤之剛記者の解説を読んで、わかったことが多かった。 2022年度のチーム人件費はJ1最多の48億3千万円、J1クラブの平均の約2倍。 資金力にものを言わせ、18年にイニエスタ、19年にビジャと元スペイン代表のスターを獲得した。 19年にはMF山口螢、DF酒井高徳、21年にはFW大迫勇也にMF武藤嘉紀、日本代表経験がある大物も次々に加入した。 タレントをずらりとそろえ、スペインの強豪バルセロナの短いパスをつなぐスタイルをめざした。 しかし高い攻撃力を示せず、22年は開幕から不振を極めた。

 潮目を変えたのが、最下位に沈んでいた昨年6月に就任した46歳の吉田孝行監督、守備重視の戦術で立て直し、降格を回避した。 高い強度で球を奪いきり、速く攻めるサッカー、挽回を期す今季、選手には守備での球際の激しさを求めた。 「バルセロナ化」からの転換こそが、神戸が初の頂点をつかめた理由だと、堤之剛記者は書く。 「バルセロナ化との決別」の象徴がイニエスタの退団だ。 守備で目立った貢献のない選手は重宝せず、今期39歳になった世界的な司令塔も特別扱いしなかった。 守備の強度を上げるうえで、かっこうのお手本になったのが、大迫、武藤、山口、酒井たちだった。 欧州でもまれた彼らのフィジカルは強靭で、動きも速い。 若手は練習でぶつかることで、意識を高め、筋力トレーニングを変えた。 この試合で活躍が目立ち、胸を痛めてもがんばっていた24歳のMF佐々木大樹は、その若手の代表格だという。