美空ひばりとベートーベン2005/08/24 08:54

 美空ひばりとはおよそ縁のなさそうな人が、美空ひばりを聴いていたりする のだ。 亡くなったゼミの教授が、そうだった。 火曜日の“私のこだわり人 物伝”「美空ひばり 泣くことの力」は宗教学者の山折哲雄さん、三回目の「ひ ばりとベートーベン」を見た。 山折さんは、インドのベナレスでの日中は緊 張の連続の調査研究をしていた夜、ベートーベンの第九を聴いていて、美空ひ ばりが重なって聴こえて来る体験をした。 自分のベートーベンの聴き方は、 ひばりのメロディーで編曲して聴いていたのではないか、日本人の感性で、も う一つの膜を通して聴いていたのではないかという。

 山折さんは指揮者の大友直人さんにも尋ねて、音楽に身をゆだねて心理を解 放しているような時に、歓喜の歌は誰でも口ずさめるし、日本人の感性に染み こんだひばりの演歌も誰もがワン・フレーズぐらいなら歌える。 演歌は一日 のみそぎ、いやしの感情なのではないか、ということになる。   話は「風土が音楽を規定する」ことに進む。 チベット密教の聖地ラマで日 本人の歌が聞こえてきた。 山口百恵の「プレイバックpart.2」が流行ってい た。 3千メートルの高地、澄んだ空気、乾いた声と乾いた歌詞が、土地の人 にフィットしているのではないか、という。 中国、四川省成都では、美空ひ ばりの「哀愁波止場」「悲しい酒」、情緒纏綿とした歌が流れていた。

 祇王寺で上原まりさんの「平家物語」、筑前琵琶の演奏。 風土が演歌を育み、 演歌の底には「平家物語」の無常観がある。 インドの宗教音楽は快活で明る い。 釈迦の無常観は明るいものだった。 それが日本に入って、情緒纏綿に 変質した。 その基盤には「感情の発酵作用」があると言い、「ひばりの佐渡情 話」をバックに、インドであの夜、日本人の無常観を聴いていたのだと、山折 哲雄さんは話した。