三遊亭金時の「不孝者」2014/12/31 06:38

 金時は坊主頭で、サーモンピンクの着物。 絵馬が好き、湯島天神で一杯下 がっているのを見ていたら、「折合格」というのがあった、その時点でアウト。  「亜細亜大学でも可」というのは、亜細亜大学に失礼だろう。 二ッ目の頃、 銀座のママに手伝って頂戴、と言われてアルバイトをした。 口紅つけて、手 紙にチューをする、300通ほど。 唇がおかしくなる。 男なんて、バカなも んで、それにつられてやってくる。 私と間接キスしたことになる。

 倅は大和屋さんに行ったんだろう、権助を供につけて。 権助が帰って来て るようだが、倅はどうした、番頭さん。 左様なことではないかと、左様心得 ております。 権助を呼びなさい。 お供に行ったでがす、大和屋さんで謡の 会があるということで、若旦那、頃合いを見計らって迎えに来いと。 お客様 はどっさり入っていたんだろう? はい。 鳴り物は、三味線ジャンジャカ、 太鼓どんどん。 謡の会だろう、顔に嘘と書いてある。 ここに二分ある、手 で握れ、ふところに入れろ。 柳橋の若竹という料亭で…。 お前の着物を、 私に貸しな、迎えに行って来る。 頬被りもだ、汚いな。 あの親不孝者が。

 ご免下さいまし。 伊勢屋のもんですが、若旦那のお迎えに参りました。 刻 限は言ってある、布団部屋ででも待たせておけ、酒が好きだから、酒を出して。  賑やかにやっているな、みんな私の懐から出たものだ、ちびちびやって待って いましょう。 なんだ、燗冷ましじゃないか、私の顔を見て、何と言うかな、 死んだ婆さんがうらめしい。 (三味線が鳴る)歌い始めたよ、倅の声だ、な かなかやるねえ、こっちが年を取った訳だ。 だが芸者に習うんじゃなくて、 ちゃんと見台につかまって、月謝を払わなきゃあだめだ。

 あ、すみません。 お前、錦弥じゃないか、私だ、私だ。 旦那じゃあ、あ りませんか。 すっかり、落ちぶれちゃって。 これこれ、こういう訳だ。 な に、酌をしてくれるか。 不思議なものだね、こんな酒でも、お前の酌だと美 味しい。 何年ぶりかね。 もう、おばあちゃんですよ。 いい姐さんだ、い い旦那がいるんだろうな。 いいえ、旦那は旦那一人です。 そんなに隠すこ とはないじゃないか。 ほんとに、ないんですよ。 私は、あなたという旦那 に捨てられたんじゃないですか。 あの時、他人の請け判を押して、借金をみ んなかぶってしまった。 親切な人がいて、間に入ってくれた。 その人が、 お前と私のことを知っていて、手を切るように言われた。 店は、何とか持ち 直した。 だが今度は、私が患いついた。 ひょんなことから、良くなって、 店も元通りになった。 思い出すのは、お前のことだ。 お前には、きちっと 詫びをしていなかった、すまなかった。

 私も、あれから一度、旦那を持ちました。 若い方で、一、二か月でお道楽 が始まって、自分から別れてもらいました。 若いのはこりごり、年寄はいけ すかないのが多いじゃないですか。 旦那は別ですよ、お酌から一本にしても らって。 女ですから、こんな時旦那が側にいてくれたらと思ったことも、あ りました。 私が、お前の相談相手になるというわけには、いかないかな。 二 人で熱海へ行ったことを憶えています、箱根に回って。 また、行こうじゃな いか。 明日は用があるが、明後日三時に、上野のあそこで、会おう。 私の こと、忘れちゃあ、いやですよ。 旦那が、錦弥の背中に手を回すと…。 お 供さん、若旦那がお帰りですよ。 この、親不孝者め。

小人閑居日記 2014年12月 INDEX2014/12/31 08:31

6452 権太楼「錦の袈裟」本篇<小人閑居日記 2014.12.1.>
6453 菊之丞の「お見立て」<小人閑居日記 2014.12.2.>
6454 小満んの「お神酒徳利」前半<小人閑居日記 2014.12.3.>
6455 小満んの「お神酒徳利」後半<小人閑居日記 2014.12.4.>
6456 木内昇さんの「染井吉野を創った男」<小人閑居日記 2014.12.5.>
6457 凌雲閣、浅草十二階<小人閑居日記 2014.12.6.>
6458 茗荷谷の猫のいる家<小人閑居日記 2014.12.7.>
6459 本郷菊坂の古本屋「偏奇館」<小人閑居日記 2014.12.8.>
6460 「今日な、僕、またええ言葉見つけてん」<小人閑居日記 2014.12.9.>
6461 戦後、二組の若夫婦の家<小人閑居日記 2014.12.10.>
6462 高山寺(こうさんじ)の鳥獣人物戯画<小人閑居日記 2014.12.11.>
6463 福岡正夫さんの「蝶と私」序論<小人閑居日記 2014.12.12.>
6464 蝶の趣味、サイエンティスト型<小人閑居日記 2014.12.13.>
6465 生物学と経済学の関わり合い<小人閑居日記 2014.12.14.>
6466 自然とのふれあい、子供の心と大人の素養<小人閑居日記 2014.12.15.>
6467 「おでん」と「冬木」の句会<小人閑居日記 2014.12.16.>
6468 「江戸の読書会」の積極的役割<小人閑居日記 2014.12.17.>
6469 「会読」の討論から知的共同社会へ<小人閑居日記 2014.12.18.>
6470 異質な他者を認め合う「会読」<小人閑居日記 2014.12.19.>
6471 昌平坂学問所と福沢諭吉の関係<小人閑居日記 2014.12.20.>
6472 明治半ば「会読」が捨てられた事情<小人閑居日記 2014.12.21.>
6473 リニューアル庭園美術館のガラス<小人閑居日記 2014.12.22.>
6474 小さな「ひと」を見つめ、見つめられて<小人閑居日記 2014.12.23.>
6475 朝香宮邸の造営と鳩彦王・允子妃<小人閑居日記 2014.12.24.>
6476 アンリ・ラパンとアール・デコ博覧会<小人閑居日記 2014.12.25.>
短信 6477 戯去戯来<等々力短信 第1066号 2014.12.25.>
6478 福沢諭吉と「忠臣蔵」<小人閑居日記 2014.12.26.>
6479 さん弥の「雪てん」<小人閑居日記 2014.12.27.>
6480 三之助の「朝友」<小人閑居日記 2014.12.28.>
6481 鯉昇の「芝浜」前半<小人閑居日記 2014.12.29.>
6482 鯉昇の「芝浜」後半<小人閑居日記 2014.12.30.>
6483 三遊亭金時の「不孝者」<小人閑居日記 2014.12.31.>