橘家文蔵の「子は鎹」前半2016/12/03 06:29

 橘家文左衛門改メ、橘家文蔵、オレンジ色の襦袢の衿が目立つ。 三代目文 蔵を襲名して、50日間休まずの披露興行を終えたところで落語研究会、重荷に なる高座だと。 初代の文蔵は圓蔵の弟子で、円生の兄弟子にあたり、滑稽噺 が得意だった。 戦時中、芸協に所属、金語楼の身内、昭和19(1944)年に 亡くなり、小菅に骨を埋めている。 小菅に骨というのが、何かいい。 二代 目が師匠で、穏やかな小春日和のような人、邪魔にならない芸風と言われた。  怒鳴られた記憶がない。 沢山噺を持っていて、いろんな方が稽古に来ていた。  2001(平成13)年9月に亡くなった。 通夜が終ったら、テレビがやたらに 同じ映像をやっている。 飛行機がビルに突っ込む映像、9・11の晩だった。  あれを見るたびに、師匠の弔いを思い出す、62歳だった。 おかみさんが健在、 三代目を襲名出来て、親孝行ができたような気がする。

 <かくまでも偽り多き世の中に子の可愛さは誠なりけり>。 棟梁(とうり ゅう)居るかい。 番頭さんじゃござんせんか。 ウチの隠居の茶室の件だ、 隠居が急いでいてね、棟梁だって立派になったんだ、そうすぐにはいきません よって言ったんだがね。 今から木場まで一緒に行ってもらいたいんだが、い いかね。 行きましょう。 留守をお願いしますよ、無尽屋がきたら、帳面の 間に金が挟んであるからって。 隣には、いつも世話になってるんで。 一人 には慣れたのかい。 慣れるも何も、やってかなきゃならないんで…、洗濯物 は溜まる、洗濯するたびに溜まる。 二番目のかみさんは、酷かったね。 こ うして酒を断って、やらしてもらってますよ。 先のかみさんは、どうしてる?  どうしてますかな。 出来たかみさんだったよ、働き者だった。 坊や、何て 名だったっけ。 亀です。 そう亀ちゃん、こまっしゃくれた、可愛い子だつ た。 あれから三年、会いたいだろ。 えっ、まあ。 こないだも仕事の帰り、 菓子屋の前を通ったら、饅頭をふかしていて、これがあいつは好きだったな、 買って行ってやれば喜ぶなと思ったら、ほろりと来た。 菓子屋の小僧が、こ の人は清正公の申し子じゃないか、なんて。 親の情だよ、それが。 一人で いるんなら、元の鞘に納まったら、どうなんだい。 前をご覧よ、三人駆けて 来る、真ん中の子、亀ちゃんじゃないかい。 亀だ。 声をかけてやんな。 番 頭さん……。 木場は、あとから来ればいいんだ。

 こっちだ、亀。 お父っつあんだ。 何、恥ずかしがってんだよ。 大きく なったな、くるっと回ってみろ。 お父っつあんも、大きくなったな。 おっ 母さんは、達者か。 新しいお父っつあんは、可愛がってくれるか。 お父っ つあんは、お前だ、子供が先にできて、あとから親ができるもんか、ヤツガシ ラじゃあるまいし、そんな人いないよ。

 おっ母さんが、お針の仕事してる、仕立てや、繕い。 家は三畳しかない、 寝相が悪いと、土間に落っこっちゃう。 お前は? 学校へ行ってる。 本当 か。 おっ母さんが、なまけたら承知しない、世の中広くなってきたから、勉 強しなさい、お父っつあんは腕のいい職人だけれど、惜しいかな明き盲だった って。 お父っつあんのこと、何か言っているか? お酒さえ飲まなけりゃあ、 いい人なんだと、いつもそう言っている。 縁談の世話を焼く人は多いけれど、 みんな断っている、先の飲んだくれでコリゴリだって。 お父っつあんのこと、 恨んでやしないか。 昔のことを話してもらうんだ。 おっ母さんが、お屋敷 に奉公してたんだってね、お父っつあんは出入りの職人で、半襟や前掛けを買 ってくれたって、エサだろ。

 いい人なんだけれど、お酒を飲むとだらしなくなる。 今は、ひとったらし も、飲んじゃいない、一人で稼いでいる。 寂しいだろ。 しようがないよ。  おいでよ、ウチ、すぐそこなんだ。 おっ母さんがいるよ。 離せよ、おい、 離せ。 そうやすやすと、あの頃に戻れるわけじゃあねえんだ。 手、出しな、 小遣いをやる。 これ50銭、あたい、おつりございません。 50銭だよ、家 にいる時に、3銭くれって言ったら、ぶっ殺すって言った、苦労はしてみるも んだね。 これで鉛筆買ってもいいかい。 学校のものなら、何でも買ってや る。

 ツラ見せろ、それ傷じゃねえか。 これ、何でもない。 転んだのか。 転 んだんじゃない、斎藤さんの坊っちゃんと駒をやってて喧嘩になったんだ。 お っ母さんが、誰がやったんだっていうから、斎藤さんの坊っちゃんって言った ら、我慢しろ、斎藤さんには仕事もらっている、お下がりも…、飲んだくれで も案山子の代りになるのにって、泣きながら言ってた。 斎藤さんチってのは、 どこにあるんだ。 あのデカイ屋根の家。

 鰻、食べに行くか、好きだったろ。 明日の今時分、ここで待ってろ。 小 遣いも、おっ母さんには言うな。 知らない人にもらったってことにしな。 男 と男の約束だ。 わかった、言わない。 危ないよ、こっち見ながら走るな。  大八車が来る。 ぶつかりやがった。 あいすみません、手前共のワルでして。  大きくなったな、鉛筆と来たよ。 汗ばむよ。

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