ビゴー「芸者の一日」「娼婦の一日」2021/05/15 07:04

 ビゴーは、来日当初から花街に入りびたって芸者の生活をスケッチし、二冊の画集に、『東京芸者の一日』(明治24年刊)で生活力のあるたくましい女としての芸者を、『芸者の一日』(明治32年刊)で職業人としての厳しさをその生活に深く入り込んで、描いている。

《文明の進歩 紳士たちの夜会のすごし方》 政府高官か、大商人の〝旦那〟に連れられて、鹿鳴館に来た芸者、和服に着換え、〝旦那〟とビリアード(玉突き)を楽しんでいる。 台に乗り出して玉を突く芸者は、熱中して太もも丸出し、髭に眼鏡の男が相手で、もう一人の伊藤博文風の髭男はソファに横になって肘をつき、それを見ている。 清水勲さんは、この芸者を、「しとやかでひかえめなことを美徳とした当時の女性イメージからかなりかけはなれている。ビゴーは、日本にもこんなお転婆な女がいたという意外さを描いたのではなく、男性の従属者として極めて低い地位にある明治の女性の中でも、芸者こそが男と対等にわたりあえる職業人ではないか、と言いたげである」と。

 《今晩お気の毒さま(すでに先約があって今晩だめなの)》 ビゴーの漫画の顔は大きい。 この絵で、芸者は四頭身、贔屓の男は四頭身半ぐらいか。 待合から次の座敷に向かう芸者に、贔屓の旦那が出くわした。 男は、帽子に色眼鏡、インバネス(二重まわし)に下駄だ。 「小つる」という丸提灯、お座敷への往復は伝統にしたがって振袖の娘風にし、付き添いのおばさん(江戸時代は母親が風習)が先方で着替える留袖を持っている。

 《魚がひっかかる……》 ビゴーは吉原にしばしば出入りした外国人の一人だった。 小格子と言われた下級女郎の店の〝張見世〟の様子である。 格子の前の肘掛け台に寄りかかった、尻っぱしょりの男に、格子の中の娼婦が吸い付け煙草をしようとしている。 男は上目使いで嬉し気に手を出し、禿げ頭の着流しと、丸い毛糸の帽子にインバネスが、にやけた顔で、それを見ている。

 《手洗場》 上半身裸の娼婦が二人、粗末な手洗場で井戸水をくんで朝の洗面をしているスケッチだ。 日本女性が上半身をはだけることに何も羞恥心を抱かないことが、ビゴーには興味深かったのだろう。 朝帰りの客を送り出すと、楼内では一斉に掃除が始まる。 静けさがもどるのは9時から10時頃、朝食をすませると、くつろぎの時間だ。 「かん部屋」は、髪部屋から発した言葉らしいが、共同の化粧室であり寝室でもあった。 午後2時頃になると髪結が弟子を連れてやってきて、遊女たちは夜の仕事のために化身する。