タケこと武村竹男、蔦重の店で働くことになる2021/06/29 07:04

 お歯黒ドブで溺れている武村竹男を助けたのは、蔦屋重三郎、蔦重という地本問屋だった。 武村竹男と聞いて、タケと呼ぶ。 今の年を訊くと、天明5年の巳年だという。 将軍は?と訊けば、いきなり頭をポカリと殴られて、公方様と言え! 十代目の家治様になって、もう25年だぜ、と。 稲荷神社の鳥居の根元に放尿して、タイムスリップしてしまったのだ。

 俺はおめえの命の恩人だぜ。 しかもまだ、おめえの魂(たま)は俺の手の内にある。 このまま見世の男衆(おとこし)や番所につき出されても仕方のねえところを、こうして着物が渇くまで匿(かくま)ってやっているのはなぜだと思う?

 ひとつ、俺は地本問屋だ、荒唐無稽な話は大好物でな。 たとえ嘘でも、料理のしようによっちゃぁネタになる。 それにおめえ見てっと、おかしなことだらけだ。 芝居にしちゃあ手がこみすぎてらぁ。

 ふたーつ、(トランクスを広げて)これがなんで伸びるのか、教えろ。 こいつは、いったい何なんだ? どれも見たことがねえ…。 (ボールペン、スマートフォン、財布)

 武村竹男は、蔦重にこれまでの経緯(いきさつ)を話した。 自分が250年先の日本からやってきた人間であること、見かけは20代だが、本当は55歳のおっさんで、この先どうなるのか、全くわかっていないことも。

 蔦重は、言う。 おめえが日本国の未来ってやつは知ってても、いつどこで火事が起きるとか、誰が怪我するとか死ぬとか、俺がこの先どうなるってことはわからねえんだろ? ……ならいいさ、俺んとこに置いてやるよ。 おめえはおめえで俺んとこで働いて、じっくりとてめえの人生、やり直すがいいや。