桃月庵白酒の「お化け長屋」前半2023/07/04 07:14

 白酒、10月までという国立劇場の建て替えで、落語研究会は7~8年どこでやるのか、と。 今は、最高裁判所の隣、皇居も目の前なので、ある程度の所じゃないと。 間違っても池袋はないだろう。 池袋に近い要町、家賃が安い。 ベロベロになっても、帰れる。 私は住まない、芸人が多いので。 前座、二ッ目の初め、阿佐ヶ谷で家賃1万5千円、四畳半、日照権のない、目の前に隣家の室外機のあるアパートだった。 4軒あって、日本人は私だけ。 私の鍵で全ての部屋が開く。 なんでわかったか、帰ったら、隣の人がいて、醤油借りるよ、と言った。 大家に言ったら、ご免、開くのよ。 気兼ねなく、汚せる。 サッシでなく、閉っていても表が見え、手が出せる。 二ッ目しばらくで、他に移った。 真打に上がる前に、見に行ったら、まだあった。 サッシになっていたが、鍵はそのままだった。

 住みたい町ランキングという格付けがある。 吉祥寺、武蔵小杉。 要町はいい、覚悟すれば、飲める飲み屋がある。 人気のある所は、決まって来る。 電車の便、スーパー、土地、場所。 江戸川橋の真ん前に、神楽坂というマンションがある。 神楽坂なら、志ん朝師匠の家の近く。 江戸川橋というと、ん…、となる。

 長屋に一軒空家がある。 住んでいる連中は、物置代わりに使っている。 あそこ、誰も越してこないようにしよう。 杢さん、知恵を拝借したい、悪知恵を。 借りたい奴が、五、六人来る。 ウチに寄こしな、なんとかするから。

 こんちは、ごめん下さい。 前の家ですが、借り手は? 大家さんは遠方で、突き当りの「古狸」の杢兵衛さんがこの長屋の草分け、差配している。

 初めまして古狸様、空き家のことで。 古狸と、面と向かっていわれたのは、初めてだ。 小上がりに、四畳半、六畳、造作も付いている。 敷金は要らない、家賃は払いたいと思ったらでいい、と。 タダ、何か訳が? それなりの訳がある、話が遠くなるんで、お上がんなさい。 実は、今を去ること三年前、二十七、八の後家さんが住んでいた。 器量良しで、浮いた噂のない人だったが、花嵐時分のある晩、泥棒が入った。 物を盗って出ようとして、スヤスヤ寝ている後家さんが目に入り、ムラムラと来て、胸元に手を入れた。 後家さんが気づくと、雲付くような大男だ。 キャーッと騒がれ、髪の毛をつかんで引き寄せ、呑んでいた匕首で乳の下をブスリと一刺し、これが致命傷。 翌朝、駆けつけると、あたりは一面血の海だった。 その後、誰が越して来ても、三日と持たずに越して行く。 三日、四日は何もないが、(恐ろし気な様子と調子で)雨のしとしと降る晩など…。 もうちょっと、普通にお願いします、せめて話だけでも。 夜中に遠寺の鐘がボーンと鳴ると、仏壇の鉦がひとりでチーンと鳴り、障子に女の長い髪の毛の当たる音がサラサラ、障子は音もなくスーッと開く。 後家さんの幽霊が、ケタケタケタと笑う。 冷たい手で、と隠しておいた濡れ雑巾で顔をなでる。

 どうしたんだ、杢さん、今の奴、凄い勢いで飛び出して行った。

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