柳家蝠丸の「ほうじの茶」2022/10/07 07:00

 今日は自分一人だけ芸協、落語芸術協会、ちゃんとした噺をしない方の協会で。 キンキラキンの着物で「文七元結」をやったり、「時そば」にベートーベンが流れたりする。 落語研究会は久しぶりで、30年は出ていなかった。 真打になる4年前に出た。 ある方に言われた、あの会は若手には反応しないので、がっかりするな、外にいて入ってこない客もいる、と。 そこまでではなかったが、ひどかった、シーーンとしていた。 それから何度か出た。 今日も、当時の雰囲気は変わっていない、懐かしい。

 初めてのことは、覚えている。 50年くらい前、新宿末広の昼席の一番初め、お客が後ろにパラパラ。 和服のおじさんが入ってきた、うちの師匠、十代目桂文治(八十まで元気だった)目と声の大きい。 夜席の遅い出番なのに、後ろを行ったり来たりしている。 寝ているお客さんを、起こして歩いていた。 ありがたいような、迷惑のような思い出だ。

 もう一人、今の文治の初高座。 真ん前に、師匠が座っていた。 紙と鉛筆を持っていて、悪い所を直してやろう、と。 書きっぱなし、悪い所だらけ。 「子ほめ」のピークで絶句した、「承りますれば」が出て来ず、「ウッ、ウッ、ウッ…」。 師匠が「承りますれば」と教えている。 それで何とか、思い出して、続けることが出来た。 楽屋に戻って、お前よかったなあ、俺がいなかったら、大変なことになっていた。

 問題は、今日の演目。 落語研究会で一ぺんも出ていない噺。 短かめの噺。 八っつあん、何か用かい。 隠居のところに来ると、珍しいものがある。 見てもらおう。 掛軸の絵が変わったね、前は太田道灌だった。 白いものがとぐろを巻いている。 白蛇だ、縁起がいい、金運がつく。 田舎へ行って、共同便所に入ったら、大きな蛇が入ってきた。 小の方ですか? 大蛇。

 お茶の話をしてやろう。 地味な話で、笑う所が少ない、何か所かのチャンスを逃さないように、聞いてもらいたい。 チベットに知り合いがいて、珍しいお茶を送って来てくれた。 見て、楽しいお茶だ。 三分間よく焙じる(火であぶる)。 大きなカップに茶を入れ、お湯を入れて、待つ。 三分間待つ、といっても即席ラーメンじゃない。

 あぶくが出てきて、あぶくの中から、いいもんが出る。 裸の女で、カップヌードなんていうんじゃないでしょうね。 木が生える、花が二つ開く、紅白の梅の花。 鳥が飛んできて、ホーホケキョ。 面白い。

 見て楽しむお茶、分けてくれませんか、カカアに見せる。 ほんのチベットだけ、差し上げましょう。 ひょっとして、チャンスの時ですか? 三分間、焙じるんだよ。

 カカア、戻ったよ。 隠居さんの馬鹿な話を聞いてきたんでしょう、首長鳥の話とか。 いいものもらってきた、珍しいものだ。 お金かい。 カップがないから、丼でやろう。 あぶくが消えると、木が生える。 柳の木だ。 気(木)が変わったのか、飛んで来るのは……。 アラ、木の下の方から出て来た、気持悪い、と、目を回す。 幽霊が立っている。

 隠居に文句を言って来よう。 さっきのお茶で、カカアが目を回した。 丼の中を覗いて、おかみさんの顔が映ったのか。 男の幽霊だった。 知っている人かい? 三年前に死んだ親父の幽霊で。 何か言っていたかい? やい、倅、一周忌も三回忌もしないで、この親不孝者! ちゃんと焙ったかい? カカアに早く見せたくて、一分くらいしか焙ってない。 それでわかった、法事が足りなかった。

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