五味康祐原作の『薄桜記』2012/09/27 01:26

 「短信」第1039号の最後に書いたBSプレミアム『薄桜記』が、21日の「雪 の墓」で最終回を迎えた。 五味康祐の原作、ジェームス三木の脚本。 五味 康祐は、私がごく若い頃、剣豪や柳生一族を描いた流行作家だった。 王貞治 の一本足打法との関連か、「一刀斎はホームラン王」などという題名の小説が あったのを憶えている。 『薄桜記』の主人公丹下典膳(山本耕史)も一刀流 の剣豪で、直参の旗本、上杉家家老の息女長尾千春(柴本幸)と、吉良上野介 の世話で結婚する。 実は典膳、桜の季節に谷中の七面社の階段でよろめいた 千春を助けた、落語の「崇徳院」のような出合いをしていた。

 典膳が大坂在勤となった留守に、江戸で大火事があり、その混乱の中で、千 春がずっと彼女を懸想していた長尾家の付人に手籠めにされる。 典膳は妻の 名誉を守るため、妻を離縁し、左手を失い、家も断絶される。 千春は、離別 しても、ずっと典膳を想い続ける(ここが「可哀想」の所以である)。 浪人 となった典膳を助けたのが、中山安兵衛(高橋和也)で、高田馬場の仇討で名 を揚げ、典膳の勧めもあり浅野家に仕官して、堀部安兵衛となる。 一方、剣 に生きる武士としての誇りと筋を守る典膳は、吉良上野介(長塚京三)の客分・ 用心棒になり、上野介夫妻の計らいで春には千春と再縁することも決まった。  しかし丹下典膳と親友堀部安兵衛は、吉良方と赤穂方に分かれ、本所吉良屋敷 への討ち入りが近づいて、いよいよ刃を交えなければならない運命となる。

 物語の冒頭、花見で典膳と千春が出合った谷中の七面社は、典膳の母(檀ふ み)の墓参で、一年に一度、二人が会うことのできる場所でもあった。 七面 社、元禄十五年十二月十四日のその日は、雪であった。