AIで「全ての人々に、人生が変わる出会いを。」2016/09/25 06:51

 渡辺祐樹さんは、ここから人工知能テクノロジーについて、簡単に解説した。  「人工知能(AI、artificial intelligence)」の定義はない。(『ウィキペディア』 では「人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという 試み、或いはそのための一連の基礎技術を指す。」) 時代、時代で違う。 第 一次の人工知能ブーム、言葉は1960年代に出来た。 第二次人工知能ブーム は1980年~90年、自動でゲームを操作してくれる(「ドラゴン・クエスト」 というゲームなど)簡単なプログラム。 今、第三次人工知能ブーム、2010 年~11年ディープ・ラーニング(データの特徴をより深いレベルで学習し、非 常に高い精度で事象の認識や分類ができる機械学習の手法)が脚光を浴びてい る。 画像解析など、個別個別のタスクでは、人間を上回れるようになった。  人間レベルは、2030年~45年に実現するか。

 そこでカラフル・ボード社の事業である。 最初は、Tシャツやグッズなど のデザイナー・コンテストをやってデザインを公募、集まったデザインをユー ザーが評価し、人気のものを実際に商品化していく仕組みを事業化した。 そ の評価システムに人工知能の技術を使い、より正確にユーザーの好みを反映さ せるようにしていったのだ。 集まった評価データは、ただオリジナル商品の 開発だけでなく、アパレル企業の商品企画やマーケティング施策にも反映でき た。

 そのデザイナー・コンテストの事業がある程度仕組み化できたこともあり、 2014年11月からはスマートフォンアプリ「SENSY」での新しい事業も始めた。  アプリ上でつぎつぎにファッションアイテムが表示され、ユーザーはそれに対 して「好み」か「好みでない」か反応していく。 それを人工知能が学習して いき、次第にユーザーのセンスに合わせたアイテムが表示されるようになり、 アプリ上で購入することもできる。 ファッションレコメンドアプリ「SENSY」 を使うことで、ユーザーは自分の好みのアイテムに出合いやすくなるし、その データを販売店・ネット通販(eコマース、EC)や生産者にフィードバックす ることで、「どんなものが求められているか」予測できるようになる。 その世 界が広がれば、あらゆる場所での無駄な在庫を解消できる。 クローゼットの 管理アプリ「SENSYクローゼット」では、専属スタイリストがいるような日々 のコーディネートができる。

 人工知能は、慶應義塾大学や千葉大学との共同研究も行い、日々改善してい る。 独自のアルゴリズム(問題を解決する定型的な手法・技法)を持ち、3 本の特許出願も行っている。 ファッションの分野だけでなく、食、映像、音 楽、旅行、ヘルスケアなど、ライフスタイルの分野全般に広げていき、個人の 感性を総合的に学習していければと考えている。 具体的には、こんな事例が ある。 紳士服販売会社の集客に、過去の買物から、個人個人に合ったDMを 送る。 大手デパートで、客にワインや日本酒の利き酒をしてもらい、味覚の 好みから、ピッタリの銘柄を勧める。 

 そのようにして渡辺祐樹さんは、それぞれの人に合った、「1人ひとつの人工 知能」を持つような社会にしていければと思っている。 人間だからこそ、共感 できるもの、お母さんの手料理のように温かみのあるもの、コミュニケーショ ンなどを大切にしつつ…。 AI(人工知能)で「全ての人々に、人生が変わる 出会いを。」が、キヤッチフレーズだ。

パソコンで聴くラジオ<等々力短信 第1087号 2016.8.25.>2016/09/25 06:52

 高橋百百子さんとは、仲間内の情報交流会の受付に並んで、会費の集金をし ている。 昔から、出久根達郎さんの小説や映画『ニュー・シネマ・パラダイ ス』の面白いことなどを教えてもらったが、先日もパソコンで聴くラジオの話 を聞いた。 最近はラジオを聴くことがほとんどない。 それが佐藤春夫や江 藤淳の声が聴けるのだそうだ。 百百子さんの父上は慶應の東洋史の竹田龍児 教授、母上は鮎子さん、そのお名前でおわかりの方もおられよう、百百子さん は佐藤春夫、谷崎潤一郎両文豪のお孫さんである。 私が愛誦する三好達治は 叔父さん、まことに華麗なうらやましき家系だが、新聞雑誌で「秋刀魚の歌」 の話題が出たりすると、頭が痛く、身のすくむ思いがするらしい。

 さっそく、パソコンで「らじる★らじるNHKネットラジオ」を覗く。 「ス トリーミングを聴く」に、カルチャーラジオNHKアーカイブス、朗読、文化 講演会などがあった。 それぞれに聴いてみたいものが沢山ある。 まずカル チャーラジオで、佐藤春夫「私の自叙伝・詩文について」の第一回を聴く。 元 文芸誌(『小説現代』『群像』)編集長・大村彦次郎さんが案内人で、宇田川清江 アナ(81)の司会。 佐藤春夫は、医者の家に生れたが、父と母のおかげで、 文芸の道に進むことが出来たと話していた。

 江藤淳は「文化講演会・福沢諭吉」、平成2(1990)年7月、57歳の録音。  『福翁自伝』は実に面白い本、第一流の散文文学だという。 朗読しながら、 福沢の生涯を明快に語る。 人は5年10年の違いで、時代に出合わないと、 大きな貢献ができない。 福沢は「時代と人とのめぐり合わせ」がまことに幸 運だった。 幕末、三度外国へ行き、ただ西洋の技術文明に驚くだけでなく、 それを生み出した政治、経済のやり方、社会の仕組みに目をつける。 日本も それを身につけなければ、やられてしまう。 『西洋事情』や『学問のすゝめ』 は広く読まれた。 「一身独立して一国独立す」「独立の気力なき者は国を思ふ こと深切ならず」。 『自伝』の最後に、東洋に一新文明国を開き、一国全体の 大勢は改進進歩の一方、日清戦争など官民一致の勝利、愉快とも有難いとも言 いようがない、と。 グレート・サクセス・ストーリーのグレート・ヒーロー だ。

 江藤淳歿後の近年、私の耳学問では、福沢像はそのように明るいものではな くなった。 『福澤諭吉書簡集』『福澤諭吉事典』などを編纂した先生方は、福 沢の近代化構想は破れたという。 イギリスモデルの議院内閣制の主張は、明 治14年の政変で負け、プロシャ型憲法にもとづく天皇制国家体制の方向が定 まった。 松崎欣一さんは、自らの描いた筋書(理想)と現実との乖離に対す る福沢の「無限の苦痛」が、存命中に自ら編み刊行した『福沢全集』全五巻、 『全集緒言』、『福翁自伝』を生んだとする。