さん喬の「山崎屋」前半2016/10/09 07:18

 以前は吉原の松葉屋で落語会があって、花魁道中の恰好も見せた。 花魁道 中は、文金赤熊に派手なかんざしを挿し、豪華に着飾って、三本歯の駒下駄で、 外八文字にコロリカラリと歩く。 花魁には新造(しんぞ)が付く。 花魁を 一晩呼ぶと三分、つまり一両の3/4、クォーター、今の金で7万5千円、当 時は一両あればひと月暮せた。

 若旦那、二階に閉じ込められている。 「♪女ながらも、まさかのときは、 ハッよかちょろ、主に代りてェ玉ァ襷ィ、よかちょろ、すいのすいの、して見 てしんちょろ、味ヲ見ちゃ、よかちょろ、しげちょろ、パッパー」 (小声で) バントー、バントー、顔貸してくれ。 二階へ行って…、ちょいと頼みがある。  金、貸してくれ。 いかほど? 三十両。 一分か二分、一両ぐらいなら、な んとかできますが、とてもとても。 店の金を、ちょっとこっちへ、チョコチ ョコッと、お前がいつもやっていることだ。 私は十一の歳に御奉公に上がり ましてから、一度だって店の金に手をつけたことは、ございません。 野暮だ ね、お前は。 私は野暮でございます。 野暮にしちゃあ、あんないい女…、 あれほどの女を囲うのは、そこらの番頭に出来る事じゃない。 私は堅いんで す、転んでお地蔵さんに頭をぶつけたら、お地蔵さんが痛い! って言うんです。

 こないだ、隣町のお湯屋に行ったんだ。 出てくると、二十七、八の乙な年 増も出てきた。 下げ髪にして、移り香がよかったんで、後をついてった。 路 地の突き当りに、乙な家が一軒、清元信なんとかの看板。 ねぇ番頭さん、向 かいの女中に聞けば、よくしゃべる女で、お囲い者だというじゃないか。 横 山町三丁目鼈甲問屋の大番頭さん、ヘッヘッヘ、横山町三丁目の鼈甲問屋とい えば、近江屋宇平さんの所と、私ん所だ。 玄関を覗くと、下駄が見えた。 野 暮な下駄で、入山に二の文字の印が付いていた。 その辺にあるウチの下駄じ ゃないか。 番頭さん、堅いんだよな。 大きな声を出さないで下さい。 大 きな声は、地声だよ。 野暮ですよ。 野暮でも、若旦那は勤まる。

 三十両、何にお使いになる。 訊くのも野暮だよ、昨日、吉原の女が夢枕に 立った。 金がなきゃあ、会えない。 毎日でもいい、片時も離れたくないん だ。 どうしてなんだろうな、会いたくて、会いたくて…。 仕方がない、所 帯をお持ちになったらどうです。 若旦那、どうです、ここで大雑把なお芝居 をなさったらどうです。 ふた月から三、四か月辛抱して、外へ出ないで、身 持ちを固めて頂いて、花魁を親元身請けして、町内の鳶頭(かしら)の家に預 かってもらう。 堀之内の関山さんに、百両のお掛けがある。 それを頂きに 行って、その百両を鳶頭に預けて、帰って来て下さい。 一つ臭い芝居をしま す、金を落したことにする。 鳶頭が、外にこんなものが落ちていました、と 届けに来る。 大旦那が鳶頭の所に礼に行く。 花魁が、お茶を出す。 何で も聞きたがる大旦那です。 鳶頭が、かみさんの妹で、お屋敷に奉公していた のだが、どこかにかたずけたい、持参金三百両、箪笥、長持付きで。 大旦那、 ぜひうちの嫁に、ということになる。 そうすれば、添い遂げることが出来る。  偉い! お前は悪党だねえ。