浅草の老舗割烹料理を味わう2018/12/21 07:27

 19日、仲間内の忘年会のようなもの、浅草を撮り続けているカメラマン氏の 案内で、午後5時の雷門交番前集合。 観音様をお詣りし、羽子板市を見物し た。 青くライトアップした東京スカイツリーの真上に、下弦の月がかかって いる。 羽子板市は六十年近く前の学生時代に一度、文化地理研究会というク ラブの東京の伝統行事を見て歩く会で来たことがあったが、当時の押すな押す なの混雑ぶりに比べ、閑散としていた。 同期のかりんとう屋さん、小桜に寄 って、お目当ての割烹 一直(いちなお)へ。 しっとりと、水が打ってある。

お酒を飲まないので、普段はまったく縁のない、手の込んだ料理を楽しむ。  座敷の掛軸に「一酌散千愁」の書、一酌(しゃく)千の愁いを散ず、江戸の文 人画家、貫名菘翁(ぬきなすうおう)の作だという。 当家の酒は菊正宗、冷 やは一ノ蔵だとか。 一杯もお酒を飲まないのだから、二、三の愁いも散じる ことができないのか。 はたまたノンアルコールビールでも、愁いを散じるこ とができるのか。 美味というほかない料理を、ばくばくと食べれば、そんな 愁いも散じるのであった。 お酒を飲まないと、食べるのが早いのだ。

〔先付〕「空豆」、鹿児島産。初物は「南を向いて、笑って食べる」と言いな がら食べる。皮まで食べる人がいて、いけると言う。 「烏賊の海胆和え」 「鱈 (だと思う)の白子、酢の物、ちょっぴり紅葉おろし」

〔お椀〕「すっぽん、小さな焼き餅、白葱」 これが、元気がもりもり出る気 のする美味だった。出汁に加え、すっぽんの旨味とコラーゲン。

〔お造り〕江戸前竹岡の蛸、大トロ、ヒラメ。蛸もヒラメも、コリコリする。 大トロは、言うまでもない。ツマに、菊膾(もってのほか、か)、白髪葱のよう に薄く削いだ黄色いのはカボチャだそうだ、花山椒。

〔焼き物〕柳ガレイ、子持ち。美味しそうに見事に焼けている。食べやすい ように、頭尾と縁側をカットしてあり、白い面が上、黒い面が下。骨の真上に 包丁が入っているのか、上下に分けやすい。下処理した後、一旦干して時間を おき、さらに一手間施すとかで、身はふっくら、しっとりと仕上がっている。

〔煮物・汁物〕穴子、京都の蕪(かぶら)大根、春菊。出汁に浸かったハフ ハフと柔らかくて熱い蕪大根の上に、穴子がのっている。添えてある細い昆布 のように見えるのは、野菜だというが、何だかわからない、自家製の椎茸の軸 の佃煮(?)だそうだ。

〔食事〕鯛茶漬。胡麻ダレにまぶした鯛の刺身と少しの山葵の擂りおろしを、 ご飯にまぜ、熱い出汁をかけて、蓋をして十、数える。細く切った海苔をかけ て、かっこむ。香の物は、白菜、塩昆布、柴漬。

〔デザート〕苺、粉砂糖添え。

 手間を惜しまず、心を込めていることが、私などでもよくわかる、極上の料 理に大満足、絵シャッターの下りた仲見世を抜けて、帰路についた。