三遊亭歌武蔵の「甲府い」後半2019/06/08 07:01

 カラスカアと鳴く、豆腐屋は、その前から起きている。 卯ノ吉は、洗濯の 水を汲んでやったり、子供が泣くと懐の菓子をやったりして、たちまちかみさ ん連中の人気を得る。 あちこちの町内で、卯ノさん、卯ノさんと評判だ。  面白くないのは亭主連中、魚屋は越したのか、八百屋は潰れたのか、三度三度 豆腐は勘弁してもらいてえ、二十日も豆腐ばかり食ってて、湯に入ったら体が フーーッと浮かんだ。 じゃあ、明日はおからにするよ。

 三年の月日が流れた。 お花は? 髪結いに行ってるよ。 卯吉は当たった な、言葉もすっかり江戸もんだ、どこかのかみさんにからんでいた酔っ払いに、 いい啖呵を切っていた。 朝早く起きて、水をかぶってお題目をあげてんだ、 主(あるじ)の商売が繁盛しますように、ついでに私も出世できますようにっ て。 お花は一人娘だ、卯ノ吉を婿にして、店を継がせたいと思うんだが、ど うだろう。 お花は何ていうか? お花が、男物の着物を縫っていましたよ。  私達がよくても、卯ノ吉がどう言うかわかりませんよ。 (喧嘩腰で)おい、 卯ノ、手前、そこに座れ。 お前さん、向こうに行ってて。 卯ノ吉、お花と いっしょになって、この店を継いでくれないか。 お任せいたします。 はっ きり考えて、返事をしなさいよ。 こんな有難い話はありません、よろしくお 願いいたします。 ほら、ごらん。 卯ノ吉、すまなかったな、倅。 倅は、 まだ早いよ。

 雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダヲモ チ 一日ニ玄米四合トガンモドキヲタベ 北ニ魚屋ヤ八百屋ガアレバツマラナ イカラヤメロトイヒ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモ サレズ サフイフ豆腐屋ニワタシハリタイ  と、卯ノ吉はよく働き、店を若夫婦に任せて、両親は隠居所に住むようにな った。 浅草の観音様にお参りした戻り道に寄って、お前は、よく働くな、楽 をさせてもらっているよ。 たまには暇を取ってくれよ、お前は人間が堅過ぎ る、世辞愛嬌が大事だ、トーフの方から来るそうですね、と言われたら、おか げでまめに稼いでおります、と言え。 今、何時(なんどき)だ、と聞かれた ら、がんもどきでいかがでしょう、と言ったらどうなんだ。 世辞、愛嬌、頓 智が大事だ、寄席に行ったらいい。 十日ほどお休みをいただけませんか。 泊 りがけで寄席か、あんなものは一晩でいい。 国の伯父の所へ、挨拶に行きた いんです。 身延山に五年の願を掛けているので、願ほどきもして来たい。 お 花が、私も伯父さんに会ってみたいと言う。 行って来い、善は急げ、明日に もウチから立ってくれ。

 婆さんは、支度が大変、強飯を伯父さんのお土産代りにも。 卯ノ吉、もっ と食え、体をゆすれば入る。 お父っつあん、茶筒じゃないんだから、あれか ら寄席に行きました。 お花これで、好きなものを、買ってもらえ。 身延山 へお賽銭にします。

 みんな、こっちへ来てご覧よ、お豆腐屋さんの卯ノさんとおかみさん、旅支 度して、とてもきれいだから。 どこへ行くんだろう、聞いてみよう。 お二 人で、どちらへ? 「甲府ぃー、お参り、願ほどき!」

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