轟亭の小人閑居日記 　　　馬場紘二

　妹の和子さんは、向田邦子が恋人に死なれた時、真夜中にタンスの引き出し を開けて、座っている姉を目撃している。　見ちゃあいけないんだと思い、声 もかけなかった。　姉も、そういう時に物を言わない妹だということを知って いたと思う、という。　実は当時の向田は仕事もなく、通帳もゼロに近かった。　 どうやって、そのことから卒業するかを考え、ごはんを食べに行き、ボーリン グをした。

　和子さんは、彼は多くのものを姉に与えた、と言う。　ものの見方、考え方、 いい物悪い物、いろんな資料の求め方。　ものすごい、いいパートナーだった。　 姉は、彼が種を蒔いてくれたのに、花を咲かせないと失礼だと思ったのではな いか。　だから、がんばれた。　姉は何事に対しても、全力投球でやる人で、 パーフェクトを求めた。　決断は早く、迷わない。　勝気で、利発で、器用、 運動神経と動物的カンがあって、サササッと出来ちゃう。　看病の時は看病に、 ドラマを書く時はドラマに、スパッとそれはそれだとやれる人だった。　そし て、数々の名作が生れた。