海賊に捕まり、エクアドルの商人に飼われる2022/04/26 07:12

 カエルやイモリのような柔らかく乾燥に弱い両生類の卵は〝天然のいかだ〟の長旅に耐えられず、また、哺乳動物たちもやってくることができなかった。 そうしてゾウガメ、イグアナ、トカゲ、鳥たちというガラパゴス諸島の不思議なメンバーができたのだ。 あまりにも付き合いが長いので、お互いの言葉も知らず知らずのうちにわかるようになった。 ゾウガメのジョージが、鳥の言葉を話せるのもそのためだ。 しかし、平和な生活が脅かされるときがやってきた。 人間がこの島の存在を知ったのだ。

 興味を示したのは、普通じゃない人たち、人目を避けて、ここを隠れ家としたい人たち、海賊たちだった。 ガラパゴスの入江に船を隠し、商船が沖合を通りかかると襲撃に出発するのだ。 荒っぽい海賊たちはすぐに、ガラパゴスゾウガメが格好の食料になることに気づく。

 ゾウガメは重いけれど、何人かで船の甲板に放り込み、甲羅を下に逆さまにして何日も航海に連れていく。 ゾウガメは、長い期間、飲まず食わずでも生きて行け、身体の中に栄養や水をためておける。 海賊たちにとって、海の上のじつに新鮮なごちそうになり、とくにたんぱく質と豊富な脂がのった珍味のレバーを好んだ。 こうしてゾウガメの仲間は、どんどん殺されていった。

 ガラパゴスの山はどれも火山で、大きなカルデラになっているものが多い。 ゾウガメたちは山へ逃げて、1千メートル登り、急な崖をジグザグに下りて、カルデラ湖にメスと子どもを避難させ、オスは交代でエサをとりに山を下りた。

 ある日、ジョージたちオスガメが、上陸する海賊たちと対決する場面になった。 海賊たちも大きなゾウガメを何頭か狩れば引き揚げるはずだ。 ジョージはちょうど百歳、ついにその日が来たと、覚悟を決めた。 5頭のオスガメが、海賊船の甲板に放り込まれた。

 何日か経って、海賊たちは餌食となる船、大型商船マーベル号を見つけた。 マーベル号の船長はロドリゲスという商人で、武器と数名の用心棒を積んでいた。 用心棒たちは、鉄砲を撃ち、海賊の何人かを犠牲にし、頭をはじめ全員を捕縛した。 マーベル号は、海賊船をエクアドルの港グアヤキルまで曳航した。 人々は、悪党の海賊を捕まえたヒーローのロドリゲスを喜んで出迎え、世にも珍しい巨大なゾウガメを見て、口々に驚きの叫び声を上げた。 ロドリゲスは、商売人で、貴重なゾウガメが、世界各地の動物園や研究所などに高く売れることを知っていた。 ほかの4頭は売られ、なぜかジョージだけが残された。 グアヤキルの山手にあるロドリゲスの家の庭に連れていかれた。 百歳とはいえ、一番若手で、甲羅がまだつやつや黒光りしていたからかもしれない。 ロドリゲスの奥さんと娘さんは、いろいろなものを試して、毎日ジョージの好む果物や野菜をたくさんくれるようになった。