柳家花緑の「試し酒」後半 ― 2023/11/03 07:04
さあ、酌して下せえ。 世の中で、酒が一番好きか? おらぁ、金かな。 金を貯めて、故郷(くに)に帰って、田地田畑でも買おうってのか。 いや、そんなしみったれた料簡はねえ、稼いだ分を、そっくり飲む。 おらの故郷は、昔から酒飲みの出た所で。 どこだ? 丹波、大江山の酒呑童子てのが住んでいた、あれはおらの親戚だ。 嘘をつけ。 親戚は嘘だ。 (ごくり、ごくり、呑み込むごとに、体をゆすりながら飲む)いい心持になってきた。
紙切りも動物モノマネもできねえけれど、都々逸の文句ぐれえは知ってる。 「お酒飲む人花ならつぼみ、今日も酒酒明日も酒」。 「明けの鐘ごんとなる頃三日月形の、櫛が落ちてる四帖半」、何のこったかわからねえ。 中にはまずい文句もある、「水に油を落とせば開く、音して(落として)つぼまる尻の穴」なんてね、「酒は米の水、水戸様は丸に水」「意見する奴あ、向う見ず」だぁ、ハッハッハ。 アッ、フッ、フーーッ、何杯飲んだ? 三杯だ。 あと二杯か。 心細くなってきたな。
昔、柳橋の万八なんて料理屋で酒仙会があって、酒豪が集まった。 四升目ぐいぐいといく。 おう、ほらほら、四升開けましたよ。 こんなところで、へこんではいられねえ、酌して下せえ。 旦那様、大丈夫だよ。 締めえの一杯、早く片付ける。 飲むものは飲む、もらうものはもらう。 大丈夫だよ。 コクッ、コクッ、フッ、フーーッ、ゴクッ、ゴクッ! アァーッ、どうだ、飲んだろう。
近江屋さん、私の負けだ。 久造さん、約束の小遣いだ。 お前さんに、聞きたいことがある。 さっき、考えてくるって表に出たな、あれは何か飲んでも酔わない秘訣とか、まじないとか、あるんだろう。 アハハ、あれは何でもねえ、おらぁ五升と決まった酒を飲んだことがない、それで、表の酒屋で試しに五升飲んできた。
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