中国に内在する「三重の格差」 ― 2006/08/10 07:34
農民と都市住民では戸籍が違うという戸籍制度は、江戸時代の日本の封建的 な身分制度を思わせ、中国がいまだにその域を脱していないことを感じさせる。 士農工商が、士工商と農になっている形だ。 末端の村にまで村民委員会とい う村の行政を司る機関とそこに従事する役人がいるわけだが、末端の役人ほど 農民に対する態度がひどく、明らかに露骨な差別意識を抱いているそうだ。 都 市住民も役人同様、農民を低く見て、「外地人」(外の田舎から来た人)と呼ぶ。 農民が蔑視されている原因の一つに、共産党幹部のほとんどが都市出身者で占 められていることが考えられる、という。
杉本さんは、都市と農村の表面的な所得格差は、統計的に三倍程度と公表さ れているが、実質的な格差は、その十倍、すなわち三十倍ほどあると内々報告 されている、と書いている(211頁)。 何か所かに、中国政府発表の数字はま ったく信用できない、とある。 義務教育の普及率(51頁)、人口統計の誤差(200 頁)、失業率(264頁)、国有商業銀行の不良債権比率(279頁)など。
中国における格差は都市と農村だけでない。 改革・解放政策により発展を 続けて豊かになった沿岸部(東部)と内陸部(中西部)の格差、都市の中における貧 富の格差、この「三重の格差」こそが、中国が抱える構造問題として横たわっ ている、と杉本さんはいう。 沿岸部(東部)と内陸部(中西部)の格差は、GNP 値で比較して、1対1/2。 中国政府は、西部大開発を国是として進めてはい る。 13億の人口の内、経済発展とは無縁で、その生活が革命以来遅々として 進んでいない農民は9億、4億が都市部に住んでいるけれど、急激な経済発展 の恩恵を受けているのは、その一部に過ぎない。 二桁近い経済成長を遂げな がら、消費が一向に伸びない元凶は、富の再分配のメカニズムが働かない、こ うした「三重の格差」を持つ社会構造にあると、杉本さんは、指摘している。 社会的な不公平はより深刻化し、不満は鬱積しつつある。 抑圧されているそ れが、爆発することはないのだろうか。
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