市馬の「らくだ」2008/10/28 06:58

 トリ柳亭市馬の「らくだ」も、よかった。 権太楼といい、市馬といい、小 さんの弟子が、がっちりと育っているのを実感する。 本名が馬、あだ名がら くだという乱暴者がフグに中って死ぬ。 兄弟分という、らくだに輪をかけた ようなものすごい奴に、屑屋の久さんがつかまって、あちこち使いにやられる。  香典や通夜の酒と煮しめ、持って来なければ、死人(しびと)にカンカンノウ を踊らせると脅かし、大家のところでは、実際に久さんの歌と手拍子で、踊ら せる。 もう一軒、八百屋に菜漬の樽をもらいに行くあたりから、久さんが変 わってくる。 楽しくなって来たのだ。

 大家の届けて来た酒を「駆けつけ三杯」やり、その三杯でガラリと変わる。  「親方、いいね、俺好きだよ、あんたみたいな性分、親方えれえや、一文もな くて、面倒みるんだから。もう一杯ついどくれ。」 もう、よしたほうがいいん じゃないか、商売に行かないと釜の蓋が開かないんだろうといわれても、「もう 今日は帰(けえ)らないからな」となり、煮しめをつまんだ指を死んでいるら くだの着物で拭く。

 ここから先はあまりやらない噺だ。 屑屋は、らくだの兄弟分に、貸さない と言ったらカンカンノウを踊らせると言えと、剃刀を借りに行かせる。 らく だの頭を、酒でしめして剃り、菜漬の樽に押し込んで「ひのふのみ」で蓋をす る。 寺がないというので、二人でかついで、日本一の火屋、落合の焼場へ行 く。 高田馬場のあたりに差し掛かり、田んぼと畑の中に土橋がある、左へ行 けば新井薬師、右が落合の焼場だ。 そこで穴に足をつっこんで、よろける。  なにか尻がこりゃ軽くなった、と。 久さんは、知り合いの焼場の安公に、訳 ありの仏を焼いてくれ、しかも鑑札なしでと頼むが、樽の中は空だった。 さ っきの土橋で穴に踏み込んだ時、落としたんだと戻り、暗くなった中、へべれ けに酔って寝ている願人坊主を、樽に入れてかついで来る。 安公が火をかけ たから、たまらない。 あっちっち、と目を覚ました願人坊主、「ここはどこだ」 「日本一の火屋だ」「なに、ひやだ。冷酒(ひや)でもいいから、もう一杯くれ」