『風の系譜』の「ことば」2016/09/05 06:30

 野口冨士男『風の系譜』(講談社文芸文庫)の舞台に近い所にお住まいなので、 勧めた友人が、『風の系譜』を読んでメールをくれた。 久し振りに読みごたえ があり、20代でこんな重厚な本を書いたのか、と驚いている。 そして、こん なフレーズが、ちょっと気に入ったという。

 「昨日に似た今日を、また来る明日の上にも積み重ねて行く。」

 私も、『風の系譜』を読んでいて、父母や祖母が使っていた言い回しや、落語 の中でしか聴かなくなった言葉の、いくつかに気づいた。

「お手ッ払い」…金はあらかたそちらに注ぎ込んで「お手ッ払い」になってい た。

「勿怪(もっけ)のさいわい」

「堂摺連(どうするれん)」…花簪に肩衣(かみしも)姿で客席ににんまり送っ てよこす流し目の魅力に湧き立つ娘義太夫(たれぎだ)の熱烈なファン。

「薬罐(やかん)に入れられた蛸(たこ)」…「手も足も出やしない」。最近、 落語で「柄のない肥え柄杓、手の付けようがない」というのを聞いた。

「二千円の無尽を競り取る」…「無尽」は庶民金融の一種。頼母子講に同じ。 「頼母子講」は互助的な金融組合。組合員が一定の掛金を出し、一定の期日に 抽籤または入札によって所定の金額を順次に組合員に融通する組織。鎌倉時代 から行われた。(『福翁自伝』「一身一家経済の由来」に「頼母子の金二朱を返す」 というのがあって、父の死後、母が人の世話で頼母子講をこしらえて、しのい だ話が出て来る。10年ほど後の13,4歳の時、母に言われて、大阪屋五郎兵衛 が掛棄にした金二朱を返しに行き、しきりに辞退するのを、ぜひにと金を置い て帰った。)「無尽会社」は1951年以降、相互銀行に改組したものが多いとい うが、今は名前が変わってわからなくなった。

「米の飯とお天道様とはだれにでもついてまわる」…「といわれるが、屋根の 下に住んで、おまんまッ粒を口に入れていくのは容易ではない。」

「義理にかたくて、人情にもろい世界」…芸者や待合の女将の世界、花柳界。 「堅気さんの世界」…花柳界などとは別の世界。

「自棄(やけ)のやんぱちで一年が経った。」

「飼犬に手をかまれる」

「貧乏神、ぺんぺん草も生えない」…「あなたの前ではあるし、自分の友達の 悪口は蔭ででも言いたくないんですがねえ、佐海君は貧乏神で、あの男の通っ たあとには、ぺんぺん草も生えないという者さえいるくらいですよ」

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック