アメリカ憲法史から日本の改憲を考える2017/03/29 06:33

3月23日の朝日新聞朝刊「オピニオン&フォーラム」は「改憲論議とアメリ カ」がテーマで、阿川尚之さんが意見を述べていた。 慶應義塾大学教授や駐 米公使を務めていたが、今の肩書は同志社大学特別客員教授になっている。

阿川尚之さんは、言う。 トランプ大統領の出現で、なぜこのような人物が 選ばれたのか、とまどっている人も多いだろう。 米国の憲法と選挙制度は、 最も優れた人物を大統領に選ぶことを、保証してはいない。 この国の政治シ ステムは、凡庸な大統領も多数生み出してきた。 ただし万が一、国民の自由 を正当な理由なしに制限する強権的な大統領が誕生すれば、さまざまなしくみ で害を最小限にくい止める。 それが憲法制定者の知恵だ。 18世紀後半、憲 法制定の過程でマディソンらが説いたのは、責任を持って統治にあたる強力な 中央政府を創設すると同時に、多数の横暴と権力の集中によって個人の自由が 失われないよう、権力の分散、抑制、均衡を核とする共和国の仕組みを樹立す ることだった。 政治権力の正統性を国民多数の支持に置きながら、多数が圧 政に走る危険性も念頭に置いたのだ。 米国では憲法が27回改正され、正式 な手続きによらない憲法の変更もあったものの、基本的な国のかたちは変わっ ておらず、第1共和制が約230年続いているといえるだろう。

阿川尚之さんは、日本の憲法に目を転じる。 連合国軍総司令部(GHQ)の 草案を元に生まれた現行憲法を大幅に改正する、場合によってはまったく新し い憲法の起草を目指そうという「自主憲法論」が保守政治家や一部メディアな どにある。 阿川さんも改憲論者だが、大幅な改正、新憲法の制定は、約70 年間、最高法規として機能してきた憲法の正統性を傷つける可能性がある。 米 国憲法史から学べることの一つは、条文ごとに修正の是非を議論し、実質的改 憲についても議論を重ね、大方の国民が納得する憲法の改変を一つ一つ慎重に 実現しながら、憲法全体の正統性を守ってきたことだろう、と。

保守派が憲法の根本的な見直しを主張する一方で、リベラルの側が一切改正 すべきでないと主張しているのは皮肉だ。 9条をめぐる議論をはじめ、阿川 さんには、いずれも「鎖国主義」、国内だけで通じる「一国立憲主義」に思える。  米国憲法制定の際には、独立した13の旧植民地の安全保障が強く意識されて いた。 日本でも、現行憲法はもちろん明治憲法、さらに古くは律令制度を採 用したのも、当時の国際環境に対応し国家の安全を保障する必要があったから だと思う。 憲法を考えるには、安全保障や国際関係からの視点がかかせない。

米国人は憲法を大切にするが、神聖視はしない。 それに対して日本人は憲 法を神聖視するけれど、それほど大切にしていないように見える。 憲法解釈 は専門家の専有物ではない。 国民の誰もが憲法について柔軟に考え、意見を 表明し、議論できる。 その結果、変えるべきは変え、変える必要がなければ 変えない。 それが立憲民主主義国家のあるべき姿だろう、と阿川尚之さんは 言う。

コメント

_ 轟亭(5/15阿川尚之さんの講演) ― 2017/04/10 19:06

5月15日(月)2時45分から三田演説館の福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会は、阿川尚之慶應義塾大学名誉教授の「福澤先生の訳した憲法 : 合衆国という国のかたち」です。

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