創元社『世界少年少女文学全集』、講談社『世界名作全集』 ― 2021/01/28 07:15
池澤夏樹・池澤春菜著『ぜんぶ本の話』には、いろいろな本が出てくる。 夏樹さんの読書の最初の記憶は、昭和28(1953)年から出た創元社の『世界少年少女文学全集』だという。 これが毎月家に届くようになった。 本の手触りも印象的で、けっこう大きくて、箱入りで分厚い。 内容はというと、『ガリヴァー旅行記』と『ロビンソン・クルーソー』で一冊、しかも子供向けに書き直していない本格的なもので、訳者は吉田健一(『ガリヴァー』は阿部知二)、二段組で活字がぎっしり詰まっていた。 一冊380円、当時としたらいい値段、家が貧しかったから、よく買ってくれたと思っていたが、あとから聞いたら、父の福永武彦が32巻まで、毎回買って送ってくれた。 そのあと18巻、補遺が出て、それはうちで買ったみたい、と。 そういうわけで、夏樹さんは春菜さんと同じく、もっぱら翻訳物を読みふける子供だった、という。
創元社の「世界少年少女文学全集」、私にも思い出がある。 私は夏樹さんより四つ上だから、だいたい同じ時期に育った。 外で同年代の友達と遊ぶというようなことがほとんどない、内気な子供だった。 だが、本を読む面白さを知って、救われた。 夏樹さんは、春菜さんが世の中になじめず、本ばかり読んでいたことについて、「読書って自分自身は本に向かって開かれているんだから自閉ではないんだよ。自開だね。自ら開く。本にたいしては開かれている。本は人間と同じように生きものなんだから。人とつきあうように、本とつきあうことができる」と言っている。
私がまず手にしたのは講談社版『世界名作全集』、懐かしい上に、その恩は計り知れない。 昭和24(1949)年か25年の刊行開始、私は小学校の低学年だった。 B6判函入、グラシン紙包み(岩波文庫などをくるんでいたあの厄介な紙)、表紙は四分割のそれぞれに西洋の紋章が描かれているデザイン、背表紙は紺でオレンジ色の題字が入っていた。 第一期の十冊が定価180円、第二期のそれが200円。小遣を貯めたりした200円をしっかり握りしめ、本屋に走ったことを思い出す。
<第一期> 1ああ無情 2宝島 3巖窟王 4乞食王子 5鉄仮面 6小公子 7小公女 8トム・ソウヤーの冒険 9アンクル・トム物語 10ロビンソン漂流記 <第二期> 11家なき子 12ガリバー旅行記 13クオレ物語 14西遊記物語15三銃士 16家なき娘 17十五少年漂流記 18ロビンフッドの冒険 19ハックルベリーの冒険 20シェクスピア名作集
抄訳者の顔ぶれがすごい。 佐々木邦、江戸川乱歩、宇野浩二、千葉省三、北川千代、南洋一郎、太田黒克彦、久米元一、水島あやめ、池田宣政など。 一流の人たちが子供向けにリライトしている。 おそらく完訳より、ずっと面白いにちがいない。 読み出したら、やめられなくなった訳だと思う。
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