市川崑監督、宮川一夫撮影『おとうと』2009/10/28 07:27

 その「ニュープリント銀残し版」で『おとうと』を見た。 映画館では観た ことがなかった。 市川崑監督の昭和35(1960)年、大映作品。 幸田文原 作、水木洋子脚本、芥川也寸志音楽、宮川一夫撮影、下河原伴雄美術、伊藤幸 夫照明。 出演は岸恵子、川口浩、森雅之、田中絹代、岸田今日子、仲谷昇。

 幸田文の自伝的小説、向島の家である。 姉はげん、勝気な、しっかり者だ。  三つ違いの弟は碧郎、気はやさしいが、不良だ。 父は作家、後年の幸田露伴 の印象のような恐い人ではない、とくに碧郎には甘い。 母は後妻で姉弟の実 母ではない、リュウマチで手足が不自由、ほとんど寝たきり、クリスチャンだ。  麹町の女学校に通っているげんが、家事やデパートでの買物もしなければなら ない。 碧郎は、友達に怪我をさせて放校になり、母の世話でミッションスク ールに入ったが、悪い仲間と本屋で遊びの万引をして警察に挙げられる。 ビ リヤード、スカール、モーター・ボート、乗馬と遊び呆けて、なにかと父親に 散財をかける。 十七になった碧郎が、重い結核に罹っていることがわかる。

 岸恵子の好きな市川崑監督が請い、イヴ・シャンピと結婚後、帰国した折の 作品だったそうだ(27,8歳)。 気の強いところは適役だが、女学生にはちょ っと歳を取っている感じが否めない。 死を覚った碧郎に言われ、高島田に結 った姿を見せるシーンの、恥じらいの表情は美しかった。 母親の田中絹代が、 意地の悪い、ひねくれた感じをよく出して、いかにも憎憎しい。 そのクリス チャンの友達でひそひそ話をしに来る岸田今日子、碧郎のことを出しに姉に言 い寄る警察の男の、いやらしさを仲谷昇が、さすがの好演。