小三治「初天神」の本篇2015/01/03 07:36

 初天神に出かける。 金坊を、いっしょに連れてってよ。 駄目だ、あいつ には辟易する、早く羽織を出せ、あいつが帰らない内に。 帰って来たじゃな いか。 お父っつあん、只今。 もっと、遊んで来たら、どうだ。 友達、み んな家へ帰っちゃったよ。

 初天神、連れてってよ。 駄目だ、お前は、あれ買ってくれ、これ買ってく れって、言うから。 学校の先生が言っていたよ、一日経つと人は変るって、 今日のあたいは違う。 連れてっておくれよ。 連れてってやんなよ。 男と 男の約束だ。 あれ買ってくれ、これ買ってくれって、言わない。 言うこと 聞かないと、川ん中へ叩き込む、怖い思いするぞ。 いいよ、あたい泳げるも ん。 川ん中には河童がいるんだ、頭から齧られる。 河童は架空の動物だよ、 ウチのお父っつあんは、あどけない。

 お店が、いっぱい出ているね。 あたい、あれ買ってくれ、これ買ってくれ って、一度も言わない、いい子だよね。 いい子にしているから、ご褒美に、 何か買っておくれよ。 ご褒美がないと、後の励みにならないよ。

 団子屋だ。 団子一本、買っておくれよ。 (大きな声で)団子、買ってく れえ!!(と、言って、泣く) 言うなら、俺だけに言え、回りのひとが見て いるじゃあないか。 団子一本、くれ。 蜜ですか、アンコですか? アンコ に決まっているじゃねえか。 蜜がいいよーー、蜜がいいよーー。 蜜だ、ガ キが小いせえから、たっぷりおまけしてくれ。 蜜は、もっとドロドロしたも んだ、水っぽいんじゃないか。 駄目だな、こりゃあ、(と、垂れそうなのを、 なめる)、(続けて、ジュルジュル音を立てながら、なめる)。 お父っつあん、 蜜みんな、なめちゃった(と、泣く)。 食い物商売なんだから、店の前をきれ いにしろよ、その壺は、何が入っているんだ。 蜜です。 フタ取れ。 チャ ッポン。 ほら、食え。 (金坊も、蜜をなめて)蜜じゃない、水だもん、お じちゃん、その壺、何が入っているの? いいから、いいから。 食べちゃっ た。

 お父っつあん、凧買ってよ、凧。 凧、買ってくれえーー!! 何で、あた りに、撒き散らすんだ。 一番上の凧がいい。 あれは看板だ、売らないんだ。  売りますよ。 お父っつあんが、凧買ってくれる方法、教えてやろうか、あそ こに水溜りがある、ゆうべの雨で出来たんだ、あそこに横になると…。 買う よ。 糸、付けますか。 いらない、ウチにあるから。 泣くんじゃないよ、 糸くれ。 ずいぶんでかいな、場をみられない奴だな、爆弾三勇士みたいじゃ ないか。 ウナリ、付けますか? 付けて。 いくら? ○○円。 ヘーーェ、 ちょっと待ってくれ(と、袂から出し)、ごついね。 帰りに一杯やろうと思っ ていたのと、お賽銭、みんな取られちゃった。 受け取れ、早く歩け。

 凧、揚げたいよ。 誰も、揚げてないだろう。 揚げてるよ、あの広場の方 で。 オッカアがいけねえんだ、羽織を出せって言ったら、すぐ出せばいいん だ。 付き合うよ、今日は。 金太郎の絵だな、いま糸目を見るから。 こん なに糸たくさん、売りやがって。 金坊、あとじさりして、もっともっと、ど んどん、どーんどん。 そうだよ、もっとこっちへ寄れ、糸が枝にひっかかる から。 お父っつあん、どっち? こっちだよ。 どっち? こっち。

 よーーし、一、二、三。 そうそう、いい風が吹いて来た。 ヨー、ヨー、 ヨー、いい塩梅だな。 お父っつあん、凧揚げ、うまいね。 あたいにも、持 たせておくれよ。 ほーら、ほら、ほら、やっぱり糸沢山買って来て、よかっ た。 あたいにも、持たせてよ、凧は子供のものだろう、お父っつあんなんか、 連れて来なければよかった。

 小三治の「初天神」、笑った、笑った。 前座噺に近いようなネタでは、力量 の差が明らかに出るのだ。

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