あなたもパトロン〔昔、書いた福沢18〕2015/03/04 06:36

   等々力短信 第317号 1984(昭和59)年4月5日

             あなたもパトロン

土光臨調の第四部会長として、臨調答申のなかで、最良の成果といえる「三 公社の分割民営化」案をまとめた加藤寛さんの話を聞く機会があった。 加藤 さんが、『なぜ、今、「学問のすすめ」なのか?』(PHP)という本を出したの で、福沢諭吉協会が土曜セミナーの講師に招いたからである。 エネルギッシ ュな一時間半の講演は圧倒的で、国鉄、電電、専売の当事者はもとより、手ご わい官僚、利権にからむ政治家の猛反対の中で、答申をまとめ上げた力量も、 なるほどと思われた。

加藤寛さんによれば、福沢諭吉が農業社会から工業社会の転換期にぶつかっ たように、われわれは今、工業社会から脱工業社会の転換期に生きている。 そ こで、次の時代を見事に予見した福沢の姿勢は、新しい時代を模索するにあた って、おおいに参考になる。 とくに、福沢の説いた、民間自立の考え方こそ、 行政改革の真髄である。 三公社も、特殊法人も、みんな効率が悪い。 変化 に適応しにくい体質になっている。 分割、民営化して、民間会社のような競 争と活力を導入しなければならないというのである。

具体的に、官業の現状を聞いてびっくりした。 まず、国鉄。 臨調が、お 忍びで、現場を見に行った。 駅の助役が点呼をとる。 組合では、「さん」を つけなければ、返事をしないことになっている。 「○○さん、いらっしゃい ますか?」返事がない。 助役が見回して、その駅員を見付け、「ああ、いらっ しゃいますね」と、出勤簿に印をつける。 点呼がこうして終ると、一人が「お い、助役、おれは明日休むからな、年休にしとけよ」。 助役「はい、明日お休 みですか。ごゆっくりどうぞ」。 これではまるで、旅館の番頭だ。

つぎは電電公社。 昔、手動電話だった時、七万人の交換手がいた。 これ が自動化されて、どうなったか。 いまでも五万人以上が働いている。 何を しているかといえば、ひたすら番号の問い合わせを待っているのだ。 電話番 号簿を見やすく改良してはいけないのだ。 専売公社でも、技術の進歩に応じた人員の削減をしないため、ひと月17 日稼動という工場があるという。

 福沢は「愚民の上に苛(から)き政府あり」と言った。 不勉強ゆえに、こ れほどバカにされても、だまり続けてきたわれわれは、たしかに愚民であった。