100年先の人が紙の本を楽しめるために2015/03/23 06:33

 創業の16年前、もう出版不況と言われていた。 だが、面白い本を待って いる人はいる。 好きな球、変な球を、投げる奴がいる。 表が野球場になる ことがあるかもしれない。 出版社とは、こういうものだと、決めつける空気 が、やりにくくしている。

 全員参加型で、大企業のような部署はない。 編集、営業、仕掛け屋、サッ カーと同じ、全員、全チームで「小さな総合出版社」をやっている。 結果と して、そうなった。 面白い本は、面白い。 震える本は、震える。 そうし た最初のマグマのようなものから、本づくりをしていきたい。 それが「おも ろい」ところにたどりつく。 週一回、卓袱台ミーティングをする、それっき りで、会議はほとんどしない。 タイトル会議では、ホワイトボードに、いっ ぱい書き出していって、100%やる、投票で決める。

 出版業界の一般の取引は、取次の判断で決めた数量を本屋に送りつけてくる。  リスクがないのは、仕事じゃない。 本屋の利益は、通常2割。 業界の返品 率は40%。 それをミシマ社は、本屋さんをきめ細かく回って直接置いてもら う直販にした。 100%買い取りで、7掛け利益は3割、送料は元払い、返品の 送料は書店持ち。 本屋さんは、自ら目利きになって、仕入れたい本と数量を 注文する。 フェアで対等な関係。

 この春、「コーヒーと一冊」というシリーズを刊行する。 100頁前後で、本 を読み切る喜びを味わえる。 スマホに時間を取られる人にも手渡したい。 本 屋さんには、6掛け(通常の倍の利益)。

 3日前、リブロ池袋本店が閉店するというニュースがあった。 一生懸命や っている書店員さんからも、ちょっとしんどいという弱音が出る。 手間暇か けて返品がほとんどないような仕事をしている書店員さんもいるが、忙し過ぎ て余裕がない、彼らが日々きちんと働いていける状態を保つ必要がある。 ひ と月に1000冊売らねばならない店でも800冊しか売れない。 本屋さんの利 益を確保して、みんなで共存してやっていくことを、業界が本気でやっていか ねばならない。 「コーヒーと一冊」シリーズは、その一歩だ。

 100年先に、紙の本が残っているだろうか。 現在、その岐路にある。 効 率化に負けずに、がんばっていかなければならない。 100年後の人が、紙の 本に触れられてよかったね、と喜んでくれるかどうかは、ここ10年の僕たち にかかっている。

 三島邦弘さんの講演をメモからまとめたが、正確なところは、ご自身の著書 『計画と無計画の間「自由が丘のほがらかな出版社」の話』(河出書房新社、 2011年)、『失われた感覚を求めて地方で出版社をするということ』(朝日新聞 社出版、2014年)をお読み下さい。 ヒットしたミシマ社の本には、内田樹著 『街場の教育論』、『街場の文体論』、『街場の戦争論』、平川克美著『小商いのす すめ』、松本健一著『海岸線の歴史』、中島岳志・若松英輔著『現代の超克―本 当の「読む」を取り戻す』、益田ミリ作・平澤一平絵の絵本『はやくはやくって いわないで』などがある。