五街道雲助の「佃祭」後半2017/07/28 06:07

 おかみさん、大変だ、佃島で舟が十杯沈んで、百人死んだ。 いいや、四万 六千人だ、閻魔様の帳面に付けるのが大ごとだそうだ。 家の者は、共々に泣 き崩れる。 こういうことは、周りでやってやろう。 忌中の札を出し、坊さ んを呼んで来て、早桶を誂える。 早桶は、一番大きいのを、水ぶくれだから。

 長屋中で悔やみに行こう。 与太がいない。 「ほへほ」、次郎兵衛さんがな くなったんだって、どうなったの? おかくれになったんだ。 かくれんぼか。  死んだんだ、これからみんなで悔やみに行く。 嫌味? 悔やみだ。 「まこ とにご愁傷様でございます」って言わなくちゃあいけない。 まことにご馳走 様でございます。

 次郎兵衛さん、今朝、湯で会ったんだ、佃の祭に行かないかって言われたけ れど、断わった。 今朝、次郎兵衛さんで、夜は土座衛門か。 (おかみさん は)皆さんにやきもち焼きだって言われるから、今朝、出した、皆さんをお恨 み致します、と。 糊屋の婆さんだ。 ご法談で親鸞上人は…ムニャムニャ、 次郎兵衛さんは年寄りのことを気遣ってくれて。 また、改めて伺います。 先 生、どうも。 全く驚き入った次第で、青天の霹靂、天変地異、昨年は米が不 作、今年は野菜が不振で。 また、改めて伺います。 親方、次郎兵衛さんが 死んじゃったよ。 こんな悲しいことはない。 芋食え、芋食え、次郎兵衛さ んは、もう芋が食えないんだ。

 今夜、陰通夜だ。 迎えに行くんだが、次郎兵衛さんは、どういうナリでお 出かけで? 薩摩の絣、茶献上の帯、透綾(すきや)の羽織、白足袋、柾目の 桐下駄。 水の中で、そのままの姿でいるわけがない。 身体で何か目星にな るものは? 左の二の腕に「玉命」と、私の名前が。 ここでノロケを聞こう とは思わなかった。

 それでは、あっしはここでお別れいたします。 送って頂いて有難う、おか みさんによろしく。 「忌中」、誰が死んだんだ、お袋様か。 大きな早桶だな あ。 只今、戻りました。 ジ、ジ、ジ、ジ、ロ、ロ、ロ……、ダーーッ! ジ、 ジ、ジ、ジ、ロ、ベ、エさんだ、いけねえ、入って来ちゃあいけねえ。 あな たは、死んでるんだ。 あなたは、うっかりしてる、佃島で舟がひっくり返っ たんだ。 それで話がわかりました。 三年前に助けた女の人に、こういうわ けで、助けられた。 情けは人の為ならず、めでてえことだ、めでてえことだ。  無駄が増えちゃった、和尚さん、お引き取りを。 私は仏ですよ。 馬鹿なこ とを言うんじゃない、死なぬが仏だ。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック