J.S.ミルが福沢の著作や思想にどう影響したか2018/03/31 07:20

 安西敏三甲南大学名誉教授は、20代から福澤諭吉協会の会員で、古い建物の 交詢社の土曜セミナーで、伊藤正雄さん、富田正文さん、土橋俊一さんにお会 いしたという話をした。 私も初めからの会員で30代前半、一番若い方だっ た記憶があるから調べると、安西敏三さんは1948年のお生まれだった。 専 門の研究者と、ただの趣味の「聞きかじり」とでは、これほどの差が出来るの かと、痛感させられる講演となった。

 安西敏三さんは「福沢におけるJ.S.ミル問題―実学・功利・自由―」の初め に、丸山眞男の「福澤の徒はトクヴィルとミルを研究することが不可欠である」 と、福澤三八(福沢の三男、グラスゴー大学に留学し物理と化学を学び、慶應 義塾で数学を教えた)の「理論はミルに任せる」(福沢がその理論を自らJ.S. ミルに任せたということのようだが、私は知らなかった)を引用した。 安西 さんは、福沢の著作と西欧思想家との関連を実証的に研究してきた。 J.S.ミ ルの著作の、福沢の手沢本をリストアップし、書き込みや付箋紙貼付と、福沢 の文章との関係を綿密に照合する。 Utilitarianism(『功利主義』)Fifth Edition(1874)を、福沢は明治9(1876)年4月4日~14日、20日で読了、 再読、書き込みをしている。 The Subjection of women(1870)(『女性の隷 従』)を付箋紙貼付して読み、『学問のすゝめ』15編(明治9(1876)年)に書 いている。 リストには、他に手沢本4冊、手沢本以外4冊。

 安西敏三さんは、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程の1978年『福澤 諭吉年鑑5』(福澤諭吉協会)に、「福沢諭吉とJ.S.ミル『女性の隷従』」を書い ている。 どのように考証が行われるのか、その一部を紹介する。 福沢の署 名、赤の付箋紙貼付のあるThe Subjection of womenは、1870年にニューヨ ークにあるDAPPLETON AND COMPANYから刊行されたもので、それを岩 波文庫の大内兵衛・大内節子訳『女性の隷従』(1957年)、Oxford University Press 刊 The World Classics 170. と比較対照し、23カ所について、頁数を 一覧表にして示している。

 それは福沢の著作と思想に、どのような影響を及ぼしているか。 その例を 見てみる。 23カ所の内の(一)。 ミルの「弱い性が強い性に従属する、と いうことは一つの理屈であって経験に基づいていない。……男女間の権利の不 平等な関係は、ほかならぬ強者の法則に由来するものである。」 福沢は『学問 のすゝめ』8編で、「畢竟男子は強く婦人は弱しと云ふ所より、腕の力を本にし て男女上下の名分を立たる教なる可し」と、男女の不平等を『女大学』を引き 合いに出して批判している。 (二)ミル「男に生まれないで女として生まれ たからといって、その人の一生の地位を定めるべきではない。女性も高い社会 的地位についたり、少数の例外的職業を除いて高度の能力を要する職業に従事 してよい。」 福沢『学問のすゝめ』15編、「今の人事に於て男子は外を務め婦 人は内を治ると其関係殆ど天然なるが如くなれども『スチュアート・ミル』は 婦人論を著して、万古一定動かす可らざるの此習慣を破らんことを試みたり」。  むろんこれは福沢の『女性の隷従』全体に対する感想でもある。

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