「世紀をつらぬく福澤諭吉 没後100年記念」展を見て(1)〔昔、書いた福沢113-1〕2019/09/16 06:15

 『福澤手帖』第108号(2001(平成13)年3月)の「「世紀をつらぬく福澤 諭吉 没後100年記念」展を見て」。

 1901(昭和34)年になくなった福沢諭吉は、今年2001(平成13)年2月3 日に没後100年を迎えた。 慶應義塾は、これを記念して、1月29日から2 月10日まで、銀座の和光ホールで、「世紀をつらぬく福澤諭吉―没後100年記 念」展を開いた。 連日大盛況だったと聞く会場を、見る機会があったので、 その報告と感想を記してみたい。

 かつて松永安左ェ門さんは、ダンゴにまるめようと思っても、とても、まる められないほど大きいのが、福沢先生だと言っていた。 その福沢諭吉を、和 光ホールの余り広いとはいえないスペースに、見事にまとめたのは、企画構成 にあたった方々のたいへんな力技というほかない。 今、IT革命やグローバリ ゼーションに端的に現れている重大な転換期に立って、二十一世紀を生きぬい ていくために、福沢諭吉の思想と行動、その進取の気概あふれる精神が発した メッセージの中から、学ぶべきものは何か。 六本の柱が立てられた。

 第一ゾーンは「独立自尊迎新世紀」、福沢の人間観を晩年の「修身要領」をも とにまとめてある。 第二ゾーン「今を生きる教育」では、福沢の啓蒙活動、 道徳心、実学について、『学問のすゝめ』に始まり、グローバリゼーションと既 存文化のバランス感覚、一貫教育校に受け継がれている教育の実践まで、福沢 の独創的な教育の試みが展示されている。 第三ゾーン「交際する身体」には、 福沢が最初に始めた演説を中心に、『時事新報』にみるメディアの役割など、「交 際」というコミュニケーションの提唱がまとめられている。 第四ゾーン「ジ ェンダー・フリーをめざして」では、時代を先取りした福沢の女性観を『日本 婦人論』や『女大学評論』などから浮き彫りにしている。 第五ゾーン「新し い社会システムへ」は、『実業論』に始まり、福沢が日本の近代化に向けて推進 した実業革命、「個」の確立と「社会的共存」をともに実現する近代的保険業の 創立など、ゆたかな先見性にもとづく新しい社会システムの提唱を扱っている。  第六ゾーン「サイアンスの視点」では、福沢が先見性をもって着目した物理学 と西洋医学が、今日の理工学と医学という形で融合され発展している現状を、 最先端のロボットや手術器械をもとに展示してある。

 会場の入口のコーナーでは、慶應義塾幼稚舎教諭加藤三明さん制作の福沢諭 吉の生涯をまとめたスライドが映写されていて、福沢の足跡を概括的に振り返 るのに、とても便利だ。 福沢関係の史跡を丹念に歩いた写真と、年譜(年代 と年齢)グラフの、その時々に合わせポイントを押えた「簡略なまとめ」は、 福沢のことをよく知らない人々には特に有益だろう。

 1999(平成11)年2月号の『文藝春秋』巻頭随筆欄に、寺澤芳男さん(元 経済企画庁長官)の「福沢諭吉とラルフ・ウォルド・エマソン」というエッセ イが載った。 福沢の有名な「独立自尊」という言葉が、当時の知識人、武士 階級の基礎教養だった四書五経には出てこないことから、1841年にアメリカで 刊行されたエマソンの『セルフ・リライアンス』を読んで、福沢自身がつくっ た言葉ではないか、と寺澤さんは推論していた。 興味を持った私は、富田正 文先生の『考証 福沢諭吉』を手掛かりに調べてみて、恥ずかしながら、その 時初めて「独立自尊」が福沢の初期の著作にはなく、晩年のものだと知ったの だった。 「独立自尊」の四字の標語は、明治33年に慶應義塾関係者の間に 定着した言葉で、この四字の入っている福沢の書は、すべて明治31年9月の 大患後の揮毫とみて間違いないという。 福沢は大患後、時代に適した処世の 道を説くため、門下の高弟に「修身要領」(明治33年2月)というものを編纂 させた。 小幡篤次郎、福沢一太郎、鎌田栄吉、門野幾之進、石河幹明、日原 昌造、土屋元作らの高弟は、福沢の平素の言行を「独立自尊」の標語を中心に して、箇条書きにして示したのである。 明治34(1901)年の元旦へ向け、慶 應義塾は二十世紀へのカウントダウン、世紀送迎会を催し、福沢は「独立自尊 迎新世紀」と大書した。 今回の展覧会は、その「独立自尊迎新世紀」の書を 入口に掲げ、「修身要領」の説く「独立自尊」の精神が、新しい二十一世紀を生 き抜く指針でもありつづけることを、高らかに宣言したものだと言ってもよい だろう。

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