鮟鱇もわが身の業も煮ゆるかな2023/12/22 07:06

 久保田万太郎については、今までいろいろ書いていた。 特に、毀誉褒貶の事情と、俳句の魅力、小説『火事息子』などである。 久保田万太郎についての拙稿をリストし、ブログで読めないものの内、三田演説館で行なわれた久保田万太郎を偲ぶ会での江國滋さんの講演「万太郎俳句の魅力と特色」を再録する。

等々力短信 第315号 1984.3.15. 渋亭渋沢秀雄さん/久保田万太郎宗匠「いとう句会」、全人格の円熟にかかる(『五の日の手紙』110頁)
等々力短信 第367号 1985.9.5. いもづる式/池田弥三郎『手紙のたのしみ』川口松太郎『久保田万太郎と私』高峰秀子『人情話 松太郎』(『五の日の手紙』214頁)
等々力短信 第722号 1995.10.25. 万太郎の友達/林彦三郎―俵元昭『素顔の久保田万太郎』①(『五の日の手紙 4』86頁)
等々力短信 第723号 1995.11.5. 家賃の旦那/②「吉原の芸者」『半死半生語』が生きていた頃(『五の日の手紙 4』88頁)
江國滋さんの講演「万太郎俳句の魅力と特色」<小人閑居日記 2002.7.7.>
万太郎俳句の佳汁<小人閑居日記 2002.7.11.>
小澤實さんの『万太郎の一句』<小人閑居日記 2006.6.14.>
久保田万太郎の「夏場所」の句<小人閑居日記 2012. 5. 16.>
K氏、久保田万太郎と佐藤春夫<小人閑居日記 2013. 1. 18.>
万太郎の『火事息子』、「重箱」と山谷(さんや)<小人閑居日記 2013. 3. 3.>
江戸から明治へ、「重箱」の四代<小人閑居日記 2013. 3. 4.>
“万梅”のおしげさんの“万梅”<小人閑居日記 2013. 3. 5.>
二度全焼した山谷「重箱」<小人閑居日記 2013. 3. 6.>
その後の「重箱」、わがご縁<小人閑居日記 2013. 3. 7.>

    江國滋さんの講演「万太郎俳句の魅力と特色」<小人閑居日記 2002.7.7.>

 図書館に行ったら、江國滋さんの知らない本があって、借りて来た。 亡くなられた後、悲しくてあまり読む気にならなかったのが、そろそろ読んでみようという気になるほどの、時間が経過したということかもしれない。 『あそびましょ』、新しい芸能研究室というところから、1996年11月に出ている。 新しい芸能研究室というのは、小沢昭一さんの主宰するところのようで、巻末の出版広告を見ると、東京やなぎ句会の連衆の、それぞれ面白そうな本を出している。 大きな広告をするような所ではないので、見逃していたのだろう。

 『あそびましょ』に、1988年5月7日、三田の演説館で行なわれた久保田万太郎を偲ぶ会で、江國さんが行なった「万太郎俳句の魅力と特色」と題する講演が載っている。 万太郎俳句を大きくくくると、その基調をなすものが三つあるという。 第一に、“すがた・かたち”がいい。 ぱっと見た瞬間の印象が、実に美しい。 第二に、リズムが快い。 字あまり、字たらず、句またがりといった、破調の句がない。 第三の特色は、わかりやすい。 難解な句がなく、一瞥、すっ、と頭に入る。 それは、とりもなおさず、“俗談平語”に徹しているということにほかならない。

 江國さんは、この講演のために、万太郎全句集を二度読み返して真剣にチェックしながら、江國さんなりの分類を試み、117句を選句し、14項目に分類した「参考資料」を作って、当日配布している。 その話は、また。

     万太郎俳句の佳汁<小人閑居日記 2002.7.11.>

 7日に書いた、江國滋さんの「万太郎俳句の魅力と特色」「参考資料」で分類された14項目の話の続き。 それぞれの分類に6、7句が選句されているのだが、ここではあえて、その中から独断で(あれば季節の句を)一句ずつを選んでみたい。

一 男の「台所俳句」……市井の身辺些事
     枝豆に塩たつぷりとふりしかな
 二 万太郎語彙……絢爛たる田舎っぺい
     この町に医者のべたらの残暑かな
 三 万太郎ダンディズム……おッしゃれー
     うすもののみえすく嘘をつきにけり
 四 味の決め手……決定的スパイス
     夏場所やもとよりわざのすくひなげ
 五 即興性……「浮かぶものです」
    人に示す
     秋晴れや人がいゝとは馬鹿のこと
 六 パロディ性……才気とユーモア
     去るもの日々にうとからず盆の月
 七 メモがわり……駄句にしあれど
      オスロ
     土曜日のまためぐり来し白夜かな
 八 季重なり……主従なし
     茄子は茄子きうりはきうり秋隣
 九 平仮名づかい……視覚的効果
     あさがほにふりぬく雨となりにけり
 十 前書きの名人……寡黙と饒舌と
     こゝろよきもの
     夏あさき女の一人ぐらしかな
 十一 挨拶人生……外づら・内づら
     “細雪”自家版を読了、たゞちに作者におくる
     下の巻のすぐにもみたき芙蓉かな
 十二 したたかな平常心……「どれがほんと」
     湯豆腐やいのちのはてのうすあかり
      鮟鱇もわが身の業も煮ゆるかな
 十三 万太郎俳句の佳汁……平凡こそ
     あさがほやまずあさあさの日のひかり
 付・慶應義塾
    ふたゝび慶應義塾評議員に就任
     これといふ手柄とてなき案山子かな