柳家小満んの「芝浜」前半2023/12/28 07:08

 暮になると、誰かが演るお噺で。 小満んは、茶の着物に、黒の羽織。 江戸の中央卸売市場、魚河岸、日本橋の小田原町河岸よりも、芝の雑魚場の市が早かった。 十一人の漁師が舟板にそれぞれの名前を書き、家康が判を捺して、開業した。 日本橋は、佃島の白魚漁から始まった。

 魚屋、河岸で仕入れたのを、午前中に売り切って、酒を飲む。 一日、八、九時間寝る。 それが二、三日飲みっぱなしで、二日寝る。

 ちょいと、お前さん、さあ仕度して、浜へ行っとくれ。 今度という今度は、とことん飲んだから、酒の切り上げだって、言ってたじゃないか。 怠け癖がついて、十日過ぎてる、釜の蓋が開かないよ。 お得意様、手放したのも、取り戻せるよ、行っとくれよ。 飯台は、箍(たが)がゆるんでるだろう。 魚屋の女房だよ、ちゃんと水を張っといた。 包丁は? お前さん、偉いね、太刀魚みたいな色をしてるよ。 草鞋は? 出てます、仕入れの銭(ぜに)は、飯台に入ってるよ。 火打道具と煙草入れも。 安く回るんだよ。

 暗いじゃないか。 寒いね、やっぱり朝南に夕南、犬も忘れてるぜ。 星を見ながら出るのは、悪くないな。 雑魚場、もう浜だ。 一服している内に、明けてくるだろう。 飯台と飯台に、天秤棒を渡して、燕口(つばくろぐち、燕の尾のように開く布袋)から火打道具を出し、火を打ったところに煙管の雁首をかざす。 朝の一服は、うめえもんだ。 白んでくるぜ、夜明けだ。 自分が昇るようだな、群青色から、弁柄色、黄色くなったよ。 金糸魚(イトヨリ)のようで、梨地だ。 お天道様のお出ましだ、たまらないな。 鮫洲から舟が入ってくる、一番舟だ。 市場に、灯が入った。 もう一服して、行くか。 波の引いた砂の中、煙管の火玉の先に紐が見えた、雁首に引っ掛けて、砂を払うと、巾着袋、皮がヌルヌルしている。 重い、水で洗って、腹掛けのどんぶりに入れ、駆け出した。

 おっかあ、開けてくれ。 心張棒、かっちゃえ。 水、飲ましてくれ、駆けづめだったから。 心配するな。 おっかあ、焼きが回ったな、早く起こしやがって、浜へ行くと真っ暗だった。 煙草を喫ってると、火玉の先に、紐が見えたんだ。 皮の合切袋だった。 ヌルヌルして、キビが悪い。 大変だよ、お前さん、お台場銀(お台場工事の人足に支払った)だよ、ずいぶんあるねえ。 早起きは三文の得だ。 四つで一分、四つで一両、チョイチョイチョイ、ぴったり三十二両ある。 大あきれだよ、運が向いてきたな、貧乏神とはお別れだ。 錦の股引、羽二重の鯉口(こいぐち、筒袖のような綿入れ)なんか着て、歩くか。 金公や寅んべを呼んで来て、一杯やろう。 まだ、夜明けだよ。 俺だけ、飲もう。 ちょいと買って来い。 まだ、酒屋も開いてない。 ゆんべのお酒の飲まなかったの、持ってきてくれ。 茶碗でいいよ。

 ありがてえな、クウクウ、クウクウ、うめえな、まるっきり味が違う。 指に塩気があるから、何もいらない。 みんな、注いでくれ。 いいなあ。 こんなことがあるんだ。 大儀になった、俺、もう寝ちゃうから、腹掛け、そっちにやっといてくれ。 蒲団、敷いてくれ。 これからは、楽させてやる。 三千世界に過ぎたるものは、いい女房と、蓮の葉っぱに釈迦の涙だ。