戦前や戦中の気の毒さ2008/03/23 07:52

吉田修一さんの『悪人』の大佛次郎賞の選評では、養老孟司さん一流の皮肉 な調子が面白かった。 悪人が登場しないので、なにを書こうとしたのか、わ からない。 そのあたりのわからなさがいちばん面白かった、というのである。  泣かされたという人も多かったけれど、養老さんは泣かなかった。 「それは 年代のせいもあろうかと思う。いわば気の毒な人たちが登場するのだが、戦前 や戦中を思い出すことができる人たちは、こういう気の毒さでは泣かないと思 う。世の中は移り変わるのである」と、養老さんはいう。

 私が戦前や戦中を思い出すことができるのは幼時の記憶だから、そういう実 感はないけれど、最近読んだ本に、なるほどと思う戦前や戦中の気の毒さがあ った。 諸田玲子さんの『希以子』(小学館)である。 一昨年秋、この作家の 『木もれ陽の街で』を読み、感心して「等々力短信」第967号「昭和26年の 家庭と「恋」」を書いた。

http://kbaba.asablo.jp/blog/2006/09/25/537071

 そうしたら『希以子』が出たので、すぐ買ったのだが、積ん読にしていて、 ようやく最近読んだのだった。