柳家ほたるの「転失気」2008/04/01 07:09

ごん助改メ柳家ほたる、黒紋付で出て3月1日に二ッ目に昇進した、「ほて る」ではない、という。 権太楼の弟子だそうだ、こういう顔をしている。

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宮城県へ行って来たが、駅を降りると、タクシーが長い長い列をつくって並 んでいた。 数えると、センダイ。 と、やって、少し受け、その調子でお願 いします、と。 「転失気(てんしき)」は、和尚が医者に「転失気はありますか」と訊かれて分からず、訊けばよいのに訊きそびれて、「若い頃にはあったが、最近はない」 と言ってしまう噺。 小僧の珍念に、「てんしき」が何かを教えると修業になら ないとごまかして、門前の雑貨屋や花屋に借りに行かせる。 雑貨屋では、最 後の「てんしき」が売れたばかりで、棚の上の「てんしき」もネズミが落して、 ぐちゃぐちゃになった。 花屋では、「てんしき」を御付の実にし、床の間に飾 っておいたのは親戚がきれいだと持って行った。 小僧の珍念が医者に訊けば、 「てんしき」はおならだった。

 和尚が知らないとわかった珍念、「てんしき」は盃だと報告、和尚は「天に口」 の呑む「呑酒器」と思い込む。 医者がまた和尚を往診、お笑いとなる。 い つの時代から寺方では盃を「てんしき」と呼んでいたかと訊かれた和尚、「なら、 へいあんの時代から」という落ちだった。 柳家ほたる、二ッ目なりたてにし ては、という出来だったが、柄は噺家にあっていて、将来性はあるように思わ れた。

左龍の「粗忽長屋」2008/04/02 08:08

柳亭左龍は、おでこがほとんどない、ぐしゃっとした濃い顔、誰かに似てい ると思っていた。 笑うと、かわいい。 それで、出目金か、ブルドック似だ と、わかった。 さん喬の弟子だそうで、噺家は変わった人(人を方と言った が)の集団だという。 たとえば、さん喬の六番弟子のさん弥(前は、さん角? といっていた)は、世間では普通に仕事ができない人。 師匠のおかみさんの お父さんが亡くなって、お焼香の時、親戚の皆さんが笑いをかみ殺している。  さん弥は、火のついたほうを、三回持ち上げた。

「粗忽長屋」は、ご存知「行き倒れ」がわからない男と、その兄弟分の熊の 噺。 まめで、そそっかしい男が、浅草の観音様へお参りに行くと、仁王門の ところに、人垣ができている。 何かやるんだろうと、股倉をくぐって前へ出 ると、「いき倒れ」だという。 「死に倒れ」じゃないか、熊の野郎だ、出掛け に会ってきたばかりなのに、当人を連れてきましょう、となる。 長屋に戻っ て、「わーぁ熊公」と、空き店(だな)を叩くあたりが、左龍独特のやかましさ。  熊、お前、浅草で死んでる。 今さら、きまり悪いという熊を連れて、当人が 出てくりゃあ、文句は言えないだろうと、浅草に戻る。 このナンセンスを、 左龍は熱っぽく演じて、けっこう聴かせた。 その柄が、変わった人に合うの かも知れない。

扇橋の「彌次郎」2008/04/03 07:15

 入船亭扇橋は、足がだいぶ弱ったのか、よぼよぼ出てきて、例によって震え ながら、ぼそぼそ「彌次郎」を始めた。 彌次郎は北海道を旅してきた。 ひ どく寒い。 お酒は、おかじり下さい、という。 歯の悪い人は、酒を呑めな い。 「おはよう」が凍って、「おはよう玉」になる。 いくつか拾ってきて、 目覚ましに使う。 鍋の上に、二つか三つ乗せておくと、「おはよう、おはよう、 おはよう」 火事が凍る。 「カチャカチャカチャ」と凍る。 このあたりの 扇橋の、とぼけた味がいい。 夜が明けて、凍った火事を見に行く。 粉雪が かかって、大きなサンゴのようだ。 何かに使おうと、のこぎりで切って、牛 の背中に乗せて持って帰る。 そのうちに牛の背中がボーボー燃え出す。 水 をかけても、焼け牛に水。 牛がモーいやだ、と言う。 小便をすると途中で 凍るから、木槌を持っていて、カチン、シャー、カチン、シャーと、やる。

 剣術修業の旅に出て、南部の恐山の麓まで来ると、山越えはおよしなさい、 と言われた。 山に登って十五、六人の山賊と戦ったり、大イノシシに後ろ前 にまたがって金絞りにして退治したら、その腹からシシの子が16匹「とうち ゃんの仇」と飛び出した。 オスの腹から子が出るか、とつっこまれると、そ れが畜生の浅ましさ。 と、全部やっていると大変なので中略。 ズンズンバ タバタ、ズンバタバタ、逃げてきたのは紀州の日高川、道成寺に釣鐘代わりの 水甕が出てくる。 清姫は焦がれ死にして一尺ほどの蛇になり、水甕を七回り 半巻く、一尺でそんなに巻けるか、甕のまわりにナメクジがいて蛇が溶けてし まう。 安珍というのは山伏、道理でホラを吹いた。 なんだか訳がわからな いながら、扇橋のおとぼけにひきづられて、笑っているうちに、この落ちまで 来る。 十二分に楽しめた。

マクラ・志ん輔が茶会に出た2008/04/04 07:11

仲入後は、古今亭志ん輔の「豊竹屋」である。 志ん輔は、例のいやいやを するような顔で出て来た。 「凝っては思案にあたわず(余る、か)」というけ れど、凝ると、ほかが見えなくなる。 ついせんだって、おとといの前の日だ けれど、茶室が出来たというのに出かけた。 お茶はやったことがない、家の 近くの都立四商の文化祭で茶道部がお茶を点てているのをニヤニヤ見ていて以 来、つぎがこれ。 「幇間腹(たいこばら)」の若旦那は鍼を、枕に打って、ネ コに打って、その次だから、あっちのほうが順を踏んでいる。 でも、承知し ているからいいと言われ、もの笑いにしようというのだろうと、出かけた。 四 谷の濠を曲ったところ、すごい場所にある。

二世帯プラス三人の七人が客。 狭いところに入る。 まずお茶かお湯のよ うなものを飲んだ。 細かいつぶつぶが、ノドにひっかかる。 煎餅だそうだ。  飲んじゃったから、ノドがイガイガする。 木か鐘の合図があったので、前の 人について行き、真似をする、落語の「本膳」と同じ。 下足番が、這いつく ばっている。 怖い顔をしていて、しゃべらない。 つくばいがあって、にじ り口から入る。 真っ暗。 しばらく暗い。 お新香に、ご飯が出た。(正式の 茶懐石らしい) そのご飯がべたべたで、ウチで出したら、かみさんに怒られ る。 私が、飯炊いてるの、わかっちゃった。 実は硬いのが好き、歯が折れ るようなのが…。 酒が出た、少し(三杯?)。 好きなほうだから、こんなに 肴があるのに、というと、間でもどうぞ、といわれた。 どんどんやって、い い心持になって、ボーッとしていたら、表に出された。 外で、椅子で待つ。

木がコーン、コーンと鳴って、相客がみんな忍者みたいにかがむ。 女の人 は、九の一か。 真似をして、やったつもりになる、「だくだく」みたいに。 出 来損ないのお化けみたいなかっこうになった。 ご主人が迎えに出てくる。 つ くばいで手を洗う。 にじり口から入って、やっと出たお茶がドロドロ(濃茶 か)、エスプレッソみたい。 その後、広い明るい所で、ふつうのお茶が出る。  終わってみたら、全部で、5時間かかった。

志ん輔の「豊竹屋」2008/04/05 07:09

 「豊竹屋」、あまり演る人はいない。 落語研究会でも、円生、林家正雀、円 弥、桂文我が、演っただけのようだ。 豊竹は竹本と並ぶ義太夫の流派だ。 義 太夫好きのおっさんがいる。 その名も豊竹屋節(ふし)右衛門、あくびが義太 夫の節ならば、起きるについてもすべての流れが義太夫になり、かみさんに普 通に起きられないのかね、といわれる。  長井好弘さんの解説によると、志ん輔の稽古を聞いた娘さんが「義太夫は知 らないけど、こんなヘンな人っているよね」とつぶやき、客に義太夫がわかる か心配していた志ん輔は、そうだこんな奴「いるいる」と思わせればいいんだ、 と気が楽になった、という。 こちらも当然わからない客で、あくびから、起 きるまでの義太夫でも、松王丸からお染久松、武田方やら明智も茫然、ちちち ちち、と混ぜこぜに登場する、その可笑しさが本当のところはわからない。 で も、わからないなりに、可笑しいのだ。

 節右衛門さんのお宅でしょうか、と訪ねてくるのが、三筋三味線堀に住む、 めちゃくちゃ口三味線が好きだという男。 チー、チン、チンドン屋、隣の婆 さん洗濯、ジャブジャブジャブ、ジャブジャブ、シャボン、となんでも口三味 線にしてしまう。 さっそくの共演となる。

 茶会のマクラが長かったせいか、本題の「豊竹屋」は、あっさりになった。  円生で忘れられない、熱い風呂に入って尻子玉がプク、プク、プクというのも、 演らなかった。 それでもなお、義太夫も、茶会のマクラも、こちらがわから ないながら楽しめたのは、志ん輔がかなりうまくなっている、脂が乗って来て いるという証左だろう。