カエルの「ひやかし」2010/12/03 06:50

 吉原田圃のカエルが「ひやかし」に行く小噺、大好きなので、やっぱり書い ておこう。 志ん生のテープやCDでニッポン放送の録音を聴くことができる が、『志ん生江戸ばなし』(立風書房・1971年)の「小咄春夏秋冬」の「あき」 に速記がある。

 えー、浅草から吉原にかけて、大きな田ン圃がありましてナ、みんなここを 突っ切って行ったもンですナ。 俗にこれを吉原田ン圃という……。 “惚れて通えば千里も一里、長い田ン圃もひとまたぎ”なんてンで、あんま り学校じゃ教えてくれないけれど…。 そうして向うへ行って、ひとまわりひ やかしてから、また田ン圃道を、妓(おんな)のはなしなンぞしながら帰って くる。 毎晩のように、大勢がゾロゾロと田ン圃道を帰ってくるから、田ン圃 の蛙がこいつを覚えちゃって、

「なンだい、おい、どうも人間てえのはよくひやかしにいくね」

「おもしろそうだな。カエロだってたまにはひやかしに行きてえや、行かねえか」

「おーい、殿さまッ、行かねえかい、おめえなンざ様子がいいよ、背中に筋が 入ってて、ウン。赤蛙(あか)もゆけやい、青蛙(あお)もみんなでゆこうじ ゃねえか。エボ?きたねねえなあいつァ、え、衛生によくねえや」

「さァ、みんな並んでナ、人間のように立って行こう」

「ズーッと並んでるのは、人間の花魁(おいらん)かい」

「ふふん、ここの楼(うち)ァ何人いるンだい」

「七人いらァ」

「おめえ、どの妓(おんな)がいい?」

「おらァ、上(かみ)から四枚目を張っている妓がいいや」

「オレは、下から四人目がいい」

「七人のまン中なら、上からでも下からでも、四枚目はおンなじだい、バカ」

「おめえ、どうしてアレがいいンだ?」

「妓なンぞわかンないんだよ、カエロだからナ、八ッ橋の裲襠(しかけ)がい いや、ウン」

「なんという妓(こ)かきいてみろよ」

「若い衆(し)さん、あすこの、八ッ橋の裲襠を着ている花魁、アレ、なンて えの?」

「えー、てまえどもにはおりませんよ」

「あすこにいるじゃねえか」

「いえ、八ッ橋の裲襠を着た花魁は、お向こうなンですよ」

カエロだから、立ってたンでネ、目がうしろのほうにくっついていたという。