志ん輔の「富久」後半 ― 2015/12/04 06:30
ジャン、ジャン。 上がったのかい、繁蔵は、どのあたりだ。 浅草、三軒 町。 久蔵を、起こしてやんな。 もう、飲めない。 三軒町が火事だ、すぐ 行きな、万々一の時は、必ずウチに来るんだよ。
筑波颪(おろし)の江戸の町、けぶってるな。 源さん、火事はどこだ。 お 前んちだ。 ウチの長屋か。 火元は糊屋の婆さん、爪に火をともすように金 を貯めていた、その火が燃え移った。
久蔵が帰ってきた。 やっぱり丸焼けだったか、しばらくウチに居ろ。 三 度の飯に不自由はないけれど、ほうぼうの旦那に挨拶回りをする。 人形町界 隈で、人があふれていた、椙杜神社の千両富だ。 当たったら、大きな家、大 きな庭に池掘って…。 錦鯉かなんか、飼うのかい。 酒でいっぱいにして、 沢庵かなんかかじりながら、それを飲んで、酔っぱらって溺れるんだ。 俺は、 質屋を始める。 今、通ってるのが、遠いのよ、自分で始めりゃ、手が省ける。
目隠しをして、長い錐(キリ)でトーーンと突く。 稚児が甲走った声で、 「本日の御富――ッ、鶴の千五百番」。 タッタッタッタッ、と座っちゃう。 運 のいい奴だ。 腰が抜けた。 担いでってやれ。 久さん。 当ったよ、六さ ん。 よかったな。 今だと八百両、来年二月なら千両になる。 今、おくれ。 札を出しな。 火事で燃やした。 何てこった、肌身離さず持っていればいい ものを。 札がなければ、金は渡せないよ。 あんたが売ったんじゃないか。 その通りだけれど、駄目なんだよ。 (襟を指して)ここがほつれたままなの が、証拠なんだよ。 駄目。 四百両でいいよ。 五十両……、いらねえ、死 んじまうよ、お前んとこの質屋にぶら下がるからな。
おい、久蔵じゃないか。 棟梁。 旦那のところに居候だって…、自分の家 に住みなよ。 火事ん時、ウチの若いもんが飛び込んで、釜と布団、それから さすが芸人だなあ、いい大神宮様のお宮、預かっているよ。 大神宮様のお宮、 返せ!! 返せ!! 開けて、あればよし、なければお前の喉笛に噛みついて …。 何だよ、離せ、離せ。
これだ、大神宮様のお宮。 パンパン(柏手打って、開ける)、アッ、あった あった。 そうか、千両富に当ったのか、胸倉取るわけだ、よかったよかった。 久さん、千両取ったら、どうするんだ。 これも大神宮様のおかげですから、 ほうぼうのお払いをいたします。
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