ドイツのメルケル首相に感心する(再録)2017/09/18 06:44

   ドイツのメルケル首相に感心する<小人閑居日記 2015.5.9.>

 ちょうど2か月になるが、来日したドイツのメルケル首相の意見と発言には、 すっかり感心した。 書いておかなければと思いつつ、2か月が経ってしまっ た。 3月9日の安倍首相との首脳会談、会談後の記者会見、それに先立つ講 演(朝日新聞社、ベルリン日独センター共催)と質疑応答などの、主に朝日新 聞の報道で知った内容だ。

 第一は、ドイツの「脱原発」の決定。 物理学者から、ドイツの首相、欧州 を率いるリーダーとなったメルケル氏は、長年、核の平和利用には賛成してき た。 その考えを変えたのは、4年前の福島の原発事故だった。 この事故が、 日本という高度な技術水準を持つ国でも起きたからだ。 そんな国でもリスク があり、事故は起きるのだということを如実に示した。 自分たちが現実に起 こりうるとは思えないと考えていたリスクが、あることが分かった。 だから こそ、当時政権にいた同僚とともに、「脱原発」の決定を下した。 ドイツの最 後の原発は2022年に停止し、自分たちは別のエネルギー制度を築き上げるの だという決定である。

 第二は、隣国との関係。 ドイツは幸運に恵まれた。 悲惨な第二次世界大 戦の経験ののち、世界がドイツによって経験しなければならなかったナチスの 時代、ホロコーストの時代があったにもかかわらず、ドイツを国際社会に受け 入れてくれたという幸運である。 どうしてそれが可能だったのか? 一つに は、ドイツが過去ときちんと向き合ったからだろう。 そして、全体として欧 州が、数世紀に及ぶ戦争から多くのことを学んだからだと思う。 さらに、当 時の大きなプロセスの一つとして、独仏の和解がある。 和解は、今では友情 に発展している。 しかし、隣国フランスの寛容な振る舞いがなかったら、可 能ではなかっただろう。 ドイツにも、ありのままをみようという用意があっ たのだ。

 日独首脳会談では、東アジア情勢が取り上げられ、メルケル首相は「この地 域にアドバイスする立場にない」と前置きした上で、韓国と日本が良好な関係 を結ぶことを願うと言及した。 戦後ドイツでは、ナチスが行った恐ろしい所 業について、自分たちが担わなければならない罪について、どう対応するかと いう非常に突っ込んだ議論が行われた。 過去の総括が和解の前提になるとい うドイツの経験を、安倍首相にお話しさせていただいた。

 東シナ海、南シナ海における海路・貿易路の安全が海洋領有権を巡る争いに よって脅かされている。 これらの航路は、ヨーロッパとこの地域を結ぶもの で、その安全は自分たちヨーロッパにもかかわっている。 しっかりした解決 策を見出すためには、二国間の努力のほかに、東南アジア諸国連合(ASEAN) のような地域フォーラムを活用し、国際海洋法にも基づいて相違点を克服する ことが重要だと考える。 透明性と予測可能性こそ、誤解や先入観を回避し、 危機が生まれることを防ぐ前提なのだ。

 第三は、「言論の自由」。 メルケル首相は、言論の自由は政府にとっての脅 威ではないと思う、と言う。 民主主義の社会で生きていれば、言論の自由と いうのはそこに当然加わっているものであり、そこでは自由に自分の意見を述 べることが出来る。 法律と憲法が与えている枠組の中で、自由に表現するこ とができるということだ。 34~35年間、私は言論の自由のない国(東ドイツ) で育った。 その国で暮す人々は、常に不安におびえ、もしかすると逮捕され るのではないか、何か不利益を被るのではないか、家族全体に何か影響がある のではないかと心配しなければならなかった。 そしてそれは国全体にも悪い ことだった。 人々が自由に意見を述べられないところから、革新的なことは 生まれないし、社会的な議論というものも生まれない。 社会全体が先に進む ことができなくなるのだ。 最終的には競争力がなくなり、人々の生活の安定 を保障することができなくなる。

 もし市民が何を考えているのかわからなかったら、それは政府にとって何も いいことはない。 私はさまざまな意見に耳を傾けなければならないと思う。  それはとても大切なことだ。

 ドイツのメルケル首相、素晴らしい。 ヨーロッパ経済で一人勝ちのドイツ を率い、ウクライナの停戦交渉にはフランスのオランド大統領とともに徹夜の 交渉に立ち会い、クシャクシャの顔をしていたかと思えば、翌日はEUで元気 にその報告をしている。 ドイツの経済に必要と思えば、遠い日本にもやって きて、アドバイスをする。 こんな首相を持つドイツが、うらやましい。