巧みな比喩、ユーモア、ペーソス ― 2017/09/04 07:12
そこで風天・渥美清の俳句である。 映画『男はつらいよ』で、寅さんの渥 美清が柴又のとらやの茶の間で、おいちゃん、おばちゃん、さくら、博、満男 にタコ社長という面々を前に、旅でのあれこれを物語る。 これを倍賞千恵子 は渥美没後の『お兄ちゃん』(廣済堂出版)という本に、「山田(洋次)さん が書いて、渥美さんがソロを歌って、私たちはその中で二重唱や三重唱のよう に歌うオペラのような場面です。渥美さんがいい声で歌うアリアを側で聞くの がとても楽しみだったものです」と書いているそうだ。 森英介さんは、風天 俳句もまた、その「渥美清のアリア」ではないかと、ふと思ったという。 多 彩な句の材料、字足らず、字余り、独特の発想、巧みな比喩、ユーモア、ペー ソス、そして全編に漂う哀愁と孤独感。 そんな句を、とりあえず20句選ん でみた。
さくら幸せにナッテオクレヨ寅次郎
村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ
風が吹くと、おしゃべり女のよう柳
いつだって朝ねしたようひとかわ眼
金魚屋生れた時から煙草くわえたよう
蓋あけたような天で九月かな
はるかぜ口笛よくにあう
ずいぶん待ってバスと落葉いっしょに
夜光虫夜釣の客の軍歌かな
案山子ふるえて風吹きぬける
冬めいてションベンの湯気ほっかりと
ステテコ女物サンダルのひとパチンコよく入る
納豆を食パンでくう二D K
貸しぶとん運ぶ踊子悲しい
鍋もっておでん屋までの月明り
はだにふれとくしたような勝力士
マスクのガーゼずれた女(ひと)や酉の市
行く年しかたないねていよう
乱歩読む窓のガラスに蝸牛
赤とんぼじっとしたまま明日どうする
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