三遊亭好の助の「蚊いくさ」2018/06/04 07:04

 顎の出ている好の助、これから夏、気分は開放的になる、女性も薄着になっ て、と始める。 虫も出る、ブーーンと来る。 最近は、一押しで来なくなる のもある。 入口に下げるやつもある「虫コナーズ」、あれを口という口に下げ て「虫デナーズ」にして、殺虫剤を撒く。 これで虫がいなくなったと、油断 して窓を開けると、また入って来る。 何で、ここを刺されるんだろう、とい う所を刺される。 指の先を刺されると、痒い。 右手の人差し指を刺された 時、どうやって痒み止めをつけるかが、私の夏の風物詩。

 今、帰えったよ。 どこへ、行ってたの。 剣術の稽古だ。 八百屋が剣術 習って、どうするんだよ。 この子の頭、見てご覧よ、瘤だらけだ、蚊に刺さ れてるんだ。 蚊帳を質に入れて、剣術やってる場合じゃない。 先生に、久 六は筋がいい、いずれ免許皆伝を許すって、言われているんだ。 断って来い、 早く。

 あいつより強くなるために、習っているのにな。 これはこれは、久六殿。  先生にお願いがあって参りました、稽古を休ませて下さい。 それは、いかん、 ワシの収入が無くなる。 かかあが、辞めろって、言ってる。 毎晩、化け物 が出て、生き血を吸う。 化け物? 何百と出る。 日が暮れると、口の尖っ たのが出る、飛ぶ、鳴く、ブーーンと。 蚊、ではないか。 ボウフラの化け 物で。 暮らしが楽になれば、蚊帳を質から出せるんで。

蚊と戦さをなせ。 武士の魂を持つ者は、大名である。 住むのは、城だ。  城賃が、三つ溜っている。 かかあは? 御(み)台所だ。 ガキは? 若君、 公達だ。 来たれや、来たれ、と蚊を呼び込む。 蚊帳を吊らぬと、油断をさ せて、ノロシを上げる、蚊燻しだ。 表は大手、裏口は搦(からめ)手、引き 窓は櫓(やぐら)、それぞれから、蚊が出て行く。 蚊がいなくなったら、大手、 搦手、櫓を閉めて、残りは平手で打ち殺せ。

やっとう、やっとう、って、納豆を食う。 寄れーい、寄れーい。 お前は、 北の方だ。 隣で、お光っちゃんが、笑ってるよ。 腰元か。 大手、搦手を 開けろ。 軍扇(渋団扇)を持って、来たれや、来たれ! 計略で、蚊帳は吊 らんぞや。 櫓を閉めろ。 ノロシを上げる、蚊燻しだ。 どうだ、苦しいか。  ゴホ、ゴホ、ゴホ! 金坊を、こっちへ。 大手、搦手を開けろ。 大手、搦 手を閉めろ。 蚊が一匹もいなくなった。 <煙くとも末は寝易き蚊遣かな>

ブーーン。 額の真ん中を、ペチッ! 落武者め。 ブーーン。 首のあた りか。 縞のモモヒキ、雑兵だな。 ペチッ! 何で、こんなに入って来るん だ。 金坊が、暑い、暑いって、表を開けた。 今宵は、城を明け渡そう。