滝鼻卓雄さんの「ジャーナリズムと権力」を聴く2018/06/18 07:08

 14日に聴きに行った三田演説会は第706回、滝鼻卓雄さん(読売新聞東京本 社 社友)の「ジャーナリズムと権力」だった。 滝鼻さんは、私より一年上で、 昭和38(1963)年法学部政治学科卒業、読売新聞東京本社社長や論説主幹を 務められたが、私などは読売巨人軍のオーナーとして記憶している。 社長時 代、私の同期の友人、読売新聞の小谷直道君の『遺稿・追想集』の「いま 小 谷君を失って思うこと」に、「学生時代からの友人であった」と書いておられる から、新聞研究室の「慶應義塾大学新聞」で活躍されたのであろう。

 「講演概略」に、「いまの時代ほど、新聞、テレビ、ウェブサイト・ニュース などのジャーナリズムと政治権力との関係が問われているときはない。連日報 道されている国家文書のずさんな管理、米大統領とメディアとの衝突、中ソに おける報道規制。 どれを取り上げても、ジャーナリズムと国家権力との対峙 が浮上してくる。 その中でジャーナリストの仕事とは何か。」とある。

 滝鼻卓雄さんは、まず近々、具体的な例として6月12日のシンガポールで の米朝首脳会談を取り上げた。 2500人ものメディアが集結したが、非核化、 朝鮮戦争の終結、拉致問題、東アジアの地政学的リスクをどう取り除くのか、 それらの問題への取材態度はどうだったのか。 大きな失望を感じたのは、ト ランプ大統領の記者会見の中味だ。 大統領が金王朝維持を表明したにもかか わらず、非核化のプロセスを明確にせず、時間がなかったと逃げたことを、な ぜ執拗に追及しなかったのか。 拉致問題にふれたのは、日本人記者一人(か、 もう一人)で、大統領は問題提起をしたと述べただけで、金正恩委員長の反応 には全くふれなかった。 トランプ大統領を激怒させてもいいから、なぜ繰り 返し、執拗に追及しなかったのか。

 大統領と新聞記者の関係、なぜ、こうバランスを欠いたのか。 この機会を 捉え、大統領を立往生させるほどの、質問の嵐を浴びせるべきだった。 ただ、 一部が放映されたABCのキャスターの単独会見では、大統領に「あの殺人者、 暗殺者と、なぜ手を結んだのか」とぶつけ、時間制限はあったが、完全な非核 化という言葉が入っているじゃないか、と答えさせていた。 日本の総理や官 房長官の記者会見を見ると、机の上にはノートパソコンと録音機だけ、核心を 突く質問が出ない。 押されっぱなしの記者会見で終わるのが、最近のトレン ドだ。 ジャーナリストの能力が試されている。 政府首脳とジャーナリスト、 力関係はイコールだ。  ジャーナリストが、あまりにも腰抜けで、米朝首脳会談は単なる政治ショー に終わった。 滝鼻さんが入社した1963年、朝鮮半島はまだキナ臭い状況で、 朝鮮戦争に従軍して交戦記事(社会部が担当)を書いた先輩たちがいた。 今 回、68年経った朝鮮戦争という国際事件の後始末としては、余りにも軽々しい、 権力者の発言通りに動かされた記者たち、これからどうするか。