お節料理の「田作り」「ごまめ」考2024/01/07 07:26

 お節料理、俳句の季題で重詰めのものを「食積(くいつみ)」というのを知ったのは、ここ数年のことだ。 お節のなかで、人気がなくて、終わりまで残っている、「田作り」「ごまめ」と呼ぶのがある。 カタクチイワシの幼魚(鯷(ひしこ))を干したもの、また、それを炒って、砂糖・醤油・みりんを煮詰めた汁の中に入れてからませたもの。

 なぜ、「田作り」というのか、という「チコちゃん」のような疑問が頭をかすめた。 江戸時代、イワシを干したのを「干鰯(ほしか)」と呼んで肥料にしていたのは聞いたことがあったから、それで「田作り」というのではないかと、連想した。

 辞書で「田作り」を見ると、「ごまめ。昔、田の肥料にしたことからの名という。正月の祝い肴(さかな)にする。」とあって、予想が当たってニヤッとする。 その辞書はさらに、[季 新年]として正岡子規の<田作りや庵の肴も海のもの>が引いてあった。 季題だったのだ。 「ごまめ」も見る。 鱓という字を書く。 「ことのばら」ともいうようだ。 こちらには、松根東洋城の[季 新年]<噛み噛むや歯切れこまかに鱓の香>が引いてある。

 そこで『角川俳句大歳時記』にあたる。 [新年]田作【たづくり】の立項で、傍題に「五万米(ごまめ)」「小殿原(ことのばら)」。 解説「鯷(ひしこ)(カタクチイワシの幼魚)の乾燥したものを炒って飴煮にしたもの。田作りという語源は田の肥料にしたことから、豊作を祈念して五万米といい、武家では、小さいながらもお頭がついていることから小殿原とよんだ。正月に欠かせないお節料理の一つである。(岩淵喜代子)」

 「考証」には、「鱓(ことのばら)」「韶陽魚(ごまめ)」「伍真米(ごまめ)」「小殿腹と称して、子孫繁栄の義を祝するなり」「鮎の至つて小さきものを韶陽魚と称して、俗に〈ごまめ〉といふものなり。その源、押鮎より起れるならし」などの表記や記述がある。

以下のような例句があった。

臆せずも海老に並ぶや小殿原       一箕
田づくりや鯷の秋をむかし顔        士巧
自嘲して五万米の歯ぎしりといふ言葉  富安風生
田作りや碌々として弟子一人        安住 敦
ごまめ噛む歯のみ健やか幸とせむ    細川加賀
田作りやむかし九人の子沢山       岬 雪夫
田作を噛みて名前の忘れ初め       榎本好宏
百歳まで生くるてふ夫ごまめ噛む     村山たかゑ
片隅にごまめの目玉ひしめきて      塩野典子
田作や昭和と同じ齢重ね          宮武章之
姉が来てごまめ作りをはじめけり     小圷健水