小満んの「二階ぞめき」本篇2010/12/02 07:13

 大旦那が角(つの)を出したので、番頭が若旦那に話をする。 たまにはい い、十日に一度、五日に一度ぐらいならいいけれど。 でも若旦那が毎晩行か なきゃあ、というものだから、それじゃあ身請けをして、近くに住まわせて、 会いに行ったら。 女目当てじゃないんだ、吉原自体、雰囲気が好き、吉原持 って来なけりゃあ駄目、素見、ぞめきが好きなんだから。 それではと番頭、 二階に吉原のようなもの、自前の吉原をつくりましょう、と。 棟梁に掛け合 うと、お店の為ならと、承知してくれた。

 二階に吉原が出来た。 明りが入って、家で「ひやかし」が出来る。 若旦 那は戸棚から風呂敷包みを出させ、着替えて行く。 古渡り唐桟、二重廻しの 三尺、素袷(襦袢を着ない)、身幅七五三、五分廻し?、弥蔵組んで歩く。 パ ッパッと、ものは鉄火で、袂がない平袖、喧嘩になるとゲンコが飛び出す、後 手喰わねえように。 手拭は藍染、甕のぞきという薄い色、ほっかぶりをする、 夜露が身体に毒だから。 家の中に夜露はありません。 素足にのめりの駒下 駄か、藁の芯だけでこしらえた中抜き草履。 どうぞ、ごゆっくり、と番頭。

 なるほど、よく出来たねえ、吉原そっくりだ。 茶屋行燈に明りが入ってい やがる。 こっちが仲の町の通りか、向こうがボーッと霞んで、待合の辻、角 (すみ)町。 べんがら格子、張見世しているように見えるよ。 江戸二の通 りに入ってみるか。 おうーいー、うー、だーれもいないよな。 たまさか、 こんな晩がある。 按摩の笛、新内流し、犬の遠吠え、このシーンとしたとこ を、素見している。 チ、チチチチ、チ、♪「親兄弟にまで、……がされ、赤 の他人の傾城に」 あそこにいる女の子、なんてんだい? タヨリさん?、顔 を拝ませてくれ、ああ、いいよ、あれは下向いてた方がいい。 マガキの間か ら覗いて下さい? あの子、初見世なんだ。 離せって、まるでスッポンだな。  忙しいな、一人でやるのは…。    様子のいい、お兄いさん、一服お上がんなさいな。 なんだい、煙草だけ喫 んで、イクジナシ、銭がないね、泥棒め。 泥棒とは何だ、こちとら、客なん だ。 お客ってのは、登楼(あが)るから客なんだ、と喧嘩になる。 殺せー、 殺しやがれ。

  たまに家にいると思ったら、馬鹿が騒いでいるな。 定吉、二階に行って、 静かにするように言って来い。 きれいですね。 おや、定吉じゃあないか、 まずいところで会ったなあ、お前、家に帰(け)えったら、親父に黙っててく んねえ。

 早めの9時に終わったので、この貯金を次の小三治の時に回してもらいたい。(国立劇場、TBSの関係者の方へ)

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